A fool is both?
「寒ィじゃねぇか・・・」
三蔵がボヤくのも当然だった。
とっくの昔に夏は過ぎ、風も冷たくなってきているこの季節に海辺に来ている酔狂な人間など辺りを見回しても見当たらなかった。
悟浄と三蔵の二人は煙草を吸いながら、空いた手をジーンズのポケットに突っ込み砂浜を無言で歩いていた。
ジャケットは車に置いてきており、三蔵の薄手のシャツの上から容赦無く潮風が肌を刺す。
悟浄に行き先も告げられず連れて来られ、挙句こんな寒い思いをしている三蔵は腹が立って少し前を歩く悟浄の背中に蹴りを入れた。
「どわっ、いきなり何すンだよっ!」
不意打ちを喰らいよろめいた悟浄が振り向きつつ三蔵を睨んだ。
「何だってこんな季節外れにこんなとこに来んだよ」
体勢を立て直しつつある悟浄を三蔵は更に蹴った。
完全に悟浄はバランスを崩しうつ伏せに倒れた。
「ぶはッ、じゃあアンタ夏に来ンのかよ!」
「来る訳無ェだろ。何が楽しくて暑い中人の多い海になんか来なきゃならねぇんだよ」
近寄ってきた三蔵の脚を倒れたままで悟浄が払う。
「だから、こんな季節外れになンだろーが!」
隣に倒れてきた三蔵を押さえ込もうとした悟浄のその腹目掛けて綺麗に膝が入った。
「俺は海なんか好きじゃねぇんだよっ」
呻く悟浄に言い捨てたところへ、オレは好きなんだよ!と怒鳴り返された。
ヤられたままで終わらせるつもりのない悟浄と負けず嫌いな三蔵の二人は砂の上を転がりながら揉み合った。
揉み合う内にいつの間にか海の中にまで入っている。
「てめぇ一人で来りゃいいじゃねぇかっ」
三蔵が悟浄の首を掴み海面に沈めた。
もがきつつ手を伸ばし三蔵の脚を引き倒す悟浄。
海面から顔を出し、
「一人で来て何が楽しいンだよっ!」
悟浄が叫ぶ。
三蔵も素早く起き上がり脇腹に拳を叩き込む。
悟浄の方が体格、腕力共に勝っていたが、三蔵にはその差を補う頭脳があった。
寒さも忘れ全身ズブ濡れで互いに殴り殴られ、蹴り蹴られ、暫く終わることの無い時間が過ぎていった。
ケリの付かない攻防に疲れ果て、互いに息を切らし波打ち際まで這うように引き上げた。
海水を含んだジーンズがとてつも無く重い。
並んで仰向けに大の字になり呼吸を整えた。
空が高く、そして青く澄んでいた。
悪くねぇな、と三蔵は思った。
先に落ち着いた悟浄が、三蔵の頬の両脇に手を付き三蔵の顔を見下ろした。
空の青さと濡れて光る紅い髪のコントラストが目に痛く、三蔵は瞳を閉じた。
瞼の裏が暗くなり、触れてきた悟浄の唇は塩辛い海水の味と砂のジャリジャリとした感触だった。
舌でも入れてきやがったら噛んでやる、と三蔵は思っていたが、悟浄の唇は数秒間触れただけで離れていった。
「で、どうすんだよ、このカッコ」
軽く微笑みながらまだ見下ろしている悟浄に問い掛けた。
「風邪引いちまうな」
「バカは引かねぇ、てめぇは大丈夫だ」
「ソレ、“バカは風邪引かない”じゃなく“風邪引いても気付かないからバカ”なんだってよ。アンタじゃん、いっつも具合悪いの気付かないの」
事実に反論する言葉も見付からず、三蔵は悟浄の頭を引き寄せ唇を塞いだ。
先刻入れたら噛んでやると思った舌を自分から入れてやった。
「先に移しとく」
離れた途端ニヤリと微笑う三蔵に悟浄は笑い出した。