怖かったんだ。

三蔵が遠くに行っちゃうような気がして。

三蔵だけじゃなく、悟浄も。

いつの間にか<何か>が起こっていて、置いていかれるような感じがしたんだ。

きっと八戒もその<何か>を知ってて、八戒にも置いていかれると思った。

みんなみんな俺の知らないところへ行っちゃう気がしたんだ。

 

 

 

 

 

 

                All

 

 

 

 

 

 

 

西へ向かうジープの上で悟浄が煙草を吸いながら鼻歌を歌っていた。

その時大きな石でも踏んだのかガタンと大きくジープが揺れた。

 

「あチッ!イだっ!!」

 

悟浄が素っ頓狂な声だか悲鳴だかを上げた。

 

「バッカでー!」

 

隣の悟空が指差して笑った。

八戒も運転席で笑っていた。

三蔵だけはいつもと同じように表情を変えず煙草を吸っていた。

 

「だーーーーっ!火種、手に落ちた!舌噛んだ!おい、猿、笑ってンじゃねぇ!八戒、お前もだ!まさかワザとじゃねェだろーな!」

 

ようやく喋れるようになった悟浄が一気に捲し立てた。

 

「そんな訳ないじゃないですか、人聞きの悪い」

「そーだ、そーだ。人のせいにすンなよ。大体煙いのに煙草なんて吸ってるからだろー!」

「あぁ?そーね、まだお子ちゃまの小猿チャンにはこの美味さは分かンねぇだろーなぁ、悔しいか」

「うっせー!そんなモン分かりたくねーよ、ゴキブリ河童!」

「誰がゴキブリ河童だ!これは触覚じゃねーぞ!」

 

後部座席で始まった喧嘩に無表情だった三蔵の眉間に皺が寄った。

ハリセンでも出したいところだが、立ち上がるのが億劫でひとまず我慢しておく。

 

「ウルせぇ!てめぇがドジなだけだろーが」

「アンタにだけは言われたくねーよ!」

「俺はそんなドジは踏まねぇよ。てめぇと一緒にするな」

「そんなら言わして貰うけどな!こないだ・・・・」

 

悟浄が運転席と助手席の間から身を乗り出した。

 

「はいはい、それぐらいにしておいて下さいね。この道、石が多いんですから、また舌噛みますよ」

「噛まねーよっ」

 

不貞腐れた様子で悟浄は背もたれにふんぞり返った。

それを見た悟空が誰にともなく聞いた。

 

「悟浄って、八戒に頭上がんないのな。何かさ、こう八戒の子供っつーか何つーか、何?」

 

隣で悟浄が口を開けたまま悟空の顔を見た。

前では八戒も三蔵も肩が震えていた。

 

 

「僕はこんな大きな子供を産んだ覚えはありません、て言うか産めません」

 

 

「イヤ、誰もお前が産んだとまでは言ってねーから」

 

我に返った悟浄がすかさずツッコミを入れた。

 

「でも八戒なら出来そうな気がする、うん」

「八戒、お前幾つン時に産んだんだ?」

「やだなぁ、三蔵まで。いくら僕だってそれは流石に無理ですってば」

「オイ、何かズレてきてねーか?」

「おー、そーだった!八戒が子供を産めるか、じゃなくって悟浄が八戒の子供みてーって話だ」

「確かに悟浄は手がかかりますからね。それを考えると子供みたいな人ですよね。

 旅に出る前も朝起こしたり、あっ朝じゃなく昼でしたっけ。

 服は脱ぎ散らかすし、食生活だって放っておくと酷いものでしたよ。酒と煙草しか口にしないんですから」

「親子より夫婦じゃねぇか」

「うーん、そう言われればそうかも・・・・」

「ってオイ、八戒、認めるな。否定するトコだろ、そこ」

「あはは、別にいいじゃないですか」

「そっかー、八戒と悟浄は夫婦か。で、悟浄は尻に敷かれてンだな」

 

ポンと手を打ち納得したような悟空を見て、悟浄は三蔵に怒鳴った。

 

「そこのクソボーズ!お前、猿に何教えてンだよ。野郎同士で夫婦になれるか!」

「なれるんなら、なりてぇのか?」

「そういう事言ってンじゃねーだろーがっ!」

「じゃ何なんだ?」

「だからっ」

 

悟浄が言い返そうとしたその時、八戒が「あ」と小さく声を上げた。

と同時にガクンとジープが跳ねた。

 

 

 

『うぎゃーーーーーーーーー』

 

 

 

悟浄が悲鳴を上げた、ように聞こえた。

正確に言えば声にはなっていなかった。

 

 

悟浄が涙目で八戒に訴えている。

悟空には何を言っているのかさっぱり判らなかったが、八戒には判っているようだった。

 

「本当にすみません」

「だからわざとじゃないですって」

「大丈夫です、それぐらいじゃ死にません」

「ほら、静かにしてないとまた痛い思いしますよ」

 

傍から見ていると、何語か判らないような言葉を喋る悟浄と普通に喋る八戒の奇妙な光景だった。

それを見ていた悟空は、今まで不安に感じていた<何か>がストンと胸に落ちていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖かった。

置いていかれるのが。

一人になるのが。

正直、今もその<何か>が何なのかはっきりとは判らない。

でも、三蔵も悟浄も八戒も遠くへ行くんじゃないって事だけは判った。

<三蔵と悟浄>の二人に感じた『何かヘンな感じ』がどんなものでも、それで<俺と三蔵>が変わる訳じゃない。

<八戒と悟浄><三蔵と八戒><俺と八戒><俺と悟浄>

何て呼べばいいのか知らないけど、みんなそれぞれ違う名前のもので繋がってて

それはどっちが上とか下とか比べられないものなんだ。

だって全部違うんだから。

例えばさ、生きてくのに水、空気、食いモンとかって必要じゃん?

どれも無いと死んじゃうじゃん。

どれか一つなんて選べないよ。

そこまで言うと大ゲサだけど、ンな感じかなーって。

 

 

つー事で、

あー腹減った!

肉まん、春巻き、焼肉、全部俺は大好きだーっ!!!

どれか一つなんて選べねー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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