Are you hungry?
扉を叩く小さな音が聞こえたが返事はしなかった。
問わずとも誰かは分かっている。
少しの間の後、扉が開いた。
「なかなかソソるカッコじゃねーの」
三蔵は風呂上りで頭からタオルを被ったままベッドに腰掛けていた。
悟浄の声に改めて自分の格好を見るとジーンズのボタンは留めておらずファスナーも半分しか閉じていなかった。
上は何も着ていない。
それにしても女じゃあるまいしソソりはしないだろうと思う。
返事をせず頭も上げずにいると悟浄が目の前にしゃがみ込んだ。
俯いたままなので顔は見えない。
見えるのは自分と悟浄の脚、それと髪からポタポタと垂れる雫だけだった。
「泣いてるみてぇに見えるな」
「泣いてねぇ」
漸く顔を上げた。
その拍子に雫が頬を伝った。
これでは本当に泣いてるように見えそうだ。
三蔵は繰り返した。
「泣いてねぇよ」
「知ってる。オレもアンタの泣き顔なんて見たくねぇし」
垂れた雫を拭いながら三蔵は煙草を取り火を点けた。
膝を着いた悟浄が下から伸び上がってきた。
首筋にちりっとした軽い痛みが走る。
「噛むな」
一旦離れた唇がまた触れた。
「吸うな」
「まだやってねぇじゃん。てか、煙草まだ吸い終わンねーの?」
「半分も吸ってねぇよ」
「もういいって」
もぞもぞと首筋辺りで動く悟浄の頭が邪魔でまともに煙草が吸えない。
先刻と反対側の首筋にまたも痛みが走った。
と言っても大したものでは無い。
「だから噛むなっつってんだろうが」
「こんなん噛んでる内に入ンねぇよ。それよかまだかよ」
「てめぇのせいで吸えねぇんだよ」
諦めて三蔵は煙草を消した。
その気配で悟浄の顔が上がる。
「言い忘れてたがもうじき八戒が来る」
言い終えたと同時にノックの音が聞こえた。
「・・泣きてぇ・・・」
「てめぇの泣く面なんざ俺だって見たくねぇ」
もう一度ノックし律儀に「入りますよ」と一言言い置いてから八戒が入ってきた。
その間に三蔵は法衣を羽織った。
「打ち合わせついでに夜食でもどうですか?悟空も今来ます。って何か空気澱んでません?この部屋」
バタンと勢いよく扉が開いて悟空が飛び込んできた。
「オレの分、残ってる?!」
「大丈夫ですよ。まだ誰も食べてません」
八戒がテーブルに広げた饅頭を悟空が頬張る。
夕食も腹がはちきれるほど食べ、尚且つ夜食も入る悟空の胃袋はまさにブラックホールだ。
「うめーっ!悟浄、食わねぇの?」
「あれ?そんなところに居たんですか」
部屋の隅で一人蹲り、澱んだ空気を撒き散らしている悟浄の存在に八戒が気付いた。
「どうしたんです?」
「さぁな。それより噛み癖のついた駄犬はお預けが利くらしいぞ」
「噛み癖?駄犬??」
「悟浄!ホントに食わねーの?全部食っちまうかんな!」
「・・・オレが食いてぇのは饅頭じゃねーんだよ・・・・・・・・・・」
悟浄の呟きは誰の耳にも届かなかった。