在るべくして
頬杖をついて煙草を吸う悟浄の前に八戒は缶ビールを置いた。
「飲みます?」
ニヤリと笑って「勿論。サンキュ」と早速プルタブを開けた悟浄の向かいに腰を下ろし自分の分を開ける。
一口飲むと身体中に染み渡った。
「退屈、って顔ですね。出かけないんですか?」
「ンな寒そうな日はパス」
日が暮れたあたりから風が強くなり今も窓がガタガタと鳴っている。
この風では外の体感温度はかなり低そうだ。
それに比べ室内は暖房が入り程よい温度を保っている。
暑くも寒くも無い。
「隣、寝てんのかね」
暫く前から三蔵と悟空がいる隣の部屋からは物音一つしない。
「もう夜も遅いですから」
「お子様と年寄りだしな」
顔を見合わせて声を出さずに笑った。
昼間消耗した体力、といっても極一部に過ぎないのだろうがそれを補うべく悟空は何も無ければ早く寝てしまう。
三蔵は元々早寝である。
この二人が同室になれば自然の成り行きだろう。
「あー、猿の奴明日も元気一杯だぜ?付き合うオレの身が持たねぇっつーの」
「貴方達の場合どっちもどっちですけどね。それに嫌々付き合ってる訳でもないでしょう」
返事をせずに悟浄が笑って誤魔化した。
「何にしても元気が一番です。三蔵にしても睡眠不足だと翌朝機嫌が悪いですし」
「全くだぜ。たかだか寝不足ごときで何であそこまで不機嫌になれンのよ」
「この間も凄かったですよね」
「おうよ。一番の被害者はオレよ?」
「機嫌悪いの知っててちょっかい出した貴方の自業自得って気もしますけど?」
「にしてもいきなり銃ブッ放す事は無ぇだろーが。見てみ?ココ」
そう言ってそこだけ短くなった横髪をつまむ。
三蔵の銃の腕前に改めて八戒は感心した。
本人にそう言えば「狙いが外れた」と無表情で答えそうだ。
いつか本当に外した時の事を思うと恐ろしい気もする。
350mlの缶はあっという間に空になった。
二本目は悟浄が備え付けの冷蔵庫まで取りに行った。
礼を言って受け取る。
「三蔵っていえばよ、昨日アイツ煙草逆さまに火付けようとしてンの」
思い出し笑いする悟浄に八戒は微笑を浮かべた。
「普通すぐ気付くだろ?アイツ全然気付かねぇで何度も何度も付けてんだぜ?」
「で、ようやっと気付いたと思ったら思いっきり煙草握り潰して地面に叩きつけてやがんの」
八つ当たりだっつーの、とげらげら笑い出した。
「三蔵らしいですね」
「どっか抜けてるからな、アイツ」
また二人で顔を見合わせて笑った。
今どんな顔で三蔵の話をしているか。
悟浄はきっと気付いていない。
「風、止んだみたいですね」
「そういやそうだな」
あれ程がたがたと煩かった窓の揺れも収まっていた。
明日は晴れそうだ。
例えるなら悟浄と三蔵の関係は外のようだと八戒は思う。
晴れもあれば雨も降る。
風も吹けば時には雪や雷もある。
だが止まない雨は無いし冬の次には必ず春が来る。
「さてそろそろオレらも寝るとすっか」
煙草を消した後残ったビールを一息に飲み干し悟浄が立ち上がった。
「そうしますか」
「お前もゆっくり休めや」
「はい」
八戒も続いて立ち上がり灯りを消した。
例えるなら自分と悟浄の関係はこの部屋のようだと八戒は思う。
どんな天気であろうと暑過ぎず寒過ぎず居心地が良い。
それはこれからも変らないと信じている。