Early fall

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に現われた三蔵の格好を見て悟浄は唖然とした。

今は午後九時、気温は恐らく15℃前後か。

それにも関わらず三蔵が着ているものは下はジーンズ、これはまあ普通だった。

問題は上で上着どころかかなり薄手のシャツ一枚のみ。

 

 

「何で来た?」

 

「何で、っててめぇが来いって言ったんだろうが」

 

「や、そーじゃなくて電車?」

 

「ならそう訊け。タクシーだ」

 

 

納得した。

自宅から即タクシーに乗り、ここまで直行したのなら寒さも感じなかっただろう。

乗ったタクシーが禁煙車だったと不機嫌な三蔵が煙草を取り出した。

近くに見える喫煙場所まで移動する。

半分ほど吸ったところで煙草を持つ三蔵の手が小刻みに震え出した。

気温の低さに加え、喫煙は血管の収縮により手足が冷えてくる。

黙って自分の上着を渡したところで大人しく三蔵が着るとは思えない。

 

 

「素直にオレのを着るのと、無理やり着せられるのと、どっちにする?」

 

「どっちも結果は同じじゃねぇか。いらん」

 

 

三蔵の答えは予想通りだった。

寒くないのかと問えば寒くないと答えるだろう。

 

 

「もんだーい。こないだアンタが寝込んだ時病院連れてったの誰だ?」

 

「さぁな」

 

「続いて第二問。そん時薬飲ましたりしたのは?」

 

「さぁな」

 

「第三問。夜中にアイス買いに走ったのは?」

 

「・・・・・」

 

「第四問。三日だったっけか?ずっと付いてたのは?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「着る気になった?」

 

「頼んだ覚えは無ぇな」

 

 

意地でも着ない気らしい。

公衆の面前で野郎同士上着一枚の事で喧嘩など恥さらしもいいところだ。

この時間帯に出掛けられるなどそうそう無い。

貴重な時間を喧嘩で潰すも勿体無い。

悟浄は諦め早々にどこかに入る事に決めた。

喫煙場所に背を向け二人で歩き始める。

 

 

 

 

 

「何食う?」

 

 

 

「・・・・・・鍋」

 

 

 

 

 

両手をポケットに突っ込み歩く三蔵の返事に悟浄は笑った。

すかさず睨まれた挙句脚を蹴られた。

大して痛くは無い。

これ以上機嫌を損ねないよう笑いを堪えた。

 

 

 

平日のせいか人通りはそれ程多くは無かった。

どこへ行っても待たされる事は無さそうだ。

頭の中で行き先を考えながら歩いていると三蔵のくしゃみが聞こえた。

 

 

 

 

「脱げ」

 

 

耐え切れなくなったようだ。

 

 

「今夜は随分と積極的ね」

 

 

その言葉は綺麗に無視されたが渡した上着を羽織った三蔵の表情は僅かに緩んだ。

三蔵ほどではないが自分が着ているシャツも厚手ではない。

上着を脱いだ途端冷たい風が身に染みた。

 

 

 

 

「オレが寝込んだ時はよろしく」

 

「任せとけ。干からびる前に第一発見者になってやる」

 

 

 

 

三蔵が言うと冗談に聞こえないところが怖い。

 

 

 

 

 

 

通りの幟は風にはためいている。

道行く人々の格好にもう夏は全く感じられない。

本格的な秋はすぐそこだ。

悟浄は隣の三蔵をちらと見た。

相変わらず両手はポケットの中だが少々大きめの上着の中の背は伸びている。

 

 

 

 

風の冷たさが和らいだ感じがするのは何故だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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