イージーアクション
宿で飼われてる犬とさんざん遊んでそろそろ晩メシかと思って戻ってみれば。
何なんだよ、このトゲトゲしい空気は。
三蔵はテーブルで新聞読んでる。
悟浄はベッドの上で煙草。
で、八戒はドアの脇。
とりあえず八戒に小声で訊いてみた。
「何があったの?」
八戒は困った顔で肩をすくめただけだった。
そっか、八戒も分からないのか。
「理由ぐらい言えっだろうが」
勢いよく煙を吐き出しながら悟浄が三蔵を睨んだ。
あの顔はマジだ。
三蔵が怒ってるのはいつもの事だから慣れてるけど、普段へらへらした感じの悟浄がマジで怒るとちょっと迫力ある。
三蔵は新聞めくってやっぱり煙草。
とてもじゃないけど『メシ』なんて言い出せる雰囲気じゃねーな、コレ。
オレすっごい腹減ってんだけど。
どーしよ。
「耳も口も無ぇのかよ」
「聞こえてる」
悟浄の声のトーンはいつもより二割は低い。
かなりヤバい。
見上げるとやっぱり八戒も同じ事を思っていたらしくさっきよりももっと困った顔になった。
きっと止めたくても原因が分からないから何も言えないんだと思う。
「じゃあ、何か言えよ」
「何故、貴様に言わなきゃならん」
パサリと音がしてまた三蔵が新聞をめくった。
いつもと全然変らない。
だけど三蔵きっと新聞なんて読んでない。
あ。何かイイ匂いがしてきた。
この匂いはマーボ豆腐だな。
美味そう・・・。
「大体アンタはいっつも言葉が足りねぇんだよ」
「そういうてめぇは多過ぎだな」
あー、もう限界!
「何でそういう時だけ―――」
「それでいいじゃん!」
一斉にみんなこっちを見た。
「それでいいじゃん。言葉が足りない三蔵と多過ぎる悟浄。二人合わせたらそれで丁度良くなるじゃん」
みんなすげービックリした顔でオレを見てる。
そんなにおかしい事言ったか?
シーンとした空気が流れた。
うわっ、余計に悪くした?
八戒が隣でくすくすと笑い出した。
「・・・冗談じゃねぇよ。こんなハゲ坊主とペアにすンな。オレまでハゲちまうだろーが」
そう言った悟浄の顔はもうさっきまでの顔じゃなかった。
「誰がハゲだ。こっちこそ御免だ、バカが移る」
三蔵も違う。
張り詰めてた空気が緩んだ感じ。
ホッとしたらオレも力が抜けた。
――ぐぅぅーぎゅるるる――
オレの腹の音がものすごくデカく響き渡った。
「さぁて、それじゃあメシでも食いに行くとすっか。腹ペコ小猿ちゃんが我慢できねぇらしいからよ」
煙草を消して悟浄がベッドから下りて伸びをした。
「おらクソ坊主、行くぞ。今日はてめーの奢りだ」
「今日は、も何も毎度カードだろうが」
「気分の問題なんだよ、気分の」
オレの横を通り過ぎる悟浄の手が伸びてきた。
「イテぇって!」
ゲンコツで頭のてっぺんをグリグリとされた。
痛い、なんて言ったけどほんとは痛くなかった。
グリグリの後でかい掌で髪をくしゃっとして、それからふわりと離れていった悟浄の手はちっとも痛くなかった。
「今日は浴びるほど飲むからな」
「・・・好きにしろ」
先に部屋を出た二人の後に続いて八戒とオレも部屋を出た。
「助かりました。・・・ダメですねぇ僕は。色々と考え過ぎちゃって」
あはは、と隣で八戒が笑った。
悟浄はともかく、八戒も三蔵もオレなんかより全然頭がいいのにたまにすごく簡単な事が分からない。
なーんてエラそーな事言えないけどな。
だってオレただ思った事言っただけだもん。
でもこれだけは間違い無い。
メシはみんなで食った方が美味い。
でもって、喧嘩しながらより仲良く食った方がもっと美味い。
オレと悟浄の食いモンの奪い合いは喧嘩であって喧嘩じゃない・・・・・・よな?