holiday
喧しい程連続で鳴らされるインターフォンの音に三蔵は顔を顰めた。
こんな鳴らし方をする人間は、一人しか思い浮かばない。
鍵を開ける為ドアまで歩くことすら面倒で、このまま居留守を装う事を頭によぎった。
しかしながらその人間は、インターフォンに返事が無いぐらいで諦める男では無かったとすぐに思い直した。
案の定、今度はドアを叩き出した。
舌打ちの後、鍵を開ける。
「やっぱ、居んじゃねぇの」
ニヤッと笑いながら悟浄は部屋の主である三蔵より先にリビングに入っていった。
悟浄がソファに腰を落ち着ける前に、三蔵は「珈琲」と仏頂面で言った。
言われた悟浄も、何の意義も唱えずキッチンに行き珈琲を淹れる。
一口飲んで悟浄が三蔵に聞いた。
「今日は?」
「・・・映画を見る」
たった今思い付いて三蔵は答えた。
「外で?・・・ってンな訳無ェか、DVD?」
頷き、熱い淹れたての珈琲を啜った。
淹れさせておいて何だが、何でこんなに熱いんだ、と三蔵は不満に思った。
外は快晴、雲一つ無い。
世間では絶好の行楽日和だろう。
きっとどこも人で一杯に違いない。
そんな日にわざわざ出掛ける程三蔵はアウトドア派では無い。
と言っても、どんな天気であろうが好んで外に出る三蔵では無いが。
本当のところ、今日の予定は全く何も無かった。
悟浄が来るまでは、テレビも音楽も何も点けずただ新聞を読んでいただけだ。
ついでに言えば悟浄が来る予定でも無かった。
「で、何見ンの?」
「『ショーシャンクの空に』」
これまた、たった今思い付いて答えた。
「何で!」
悟浄がいきなり立ち上がった為、テーブルに膝が当たり珈琲がほんの少し零れた。
気付いた悟浄が、慌てて手近にあったティッシュで拭き取る。
「いいじゃねぇか」
「違うのにしようぜ、他にもあンだろーが」
茶色に染まったティッシュを屑篭に捨てながら悟浄は三蔵に言った。
「俺は今日コレが見たいんだよ」
「・・・・・・・・・・・・。じゃ、いいよ、オレは隣の部屋で本でも読んでっから」
そう言って悟浄は寝室へ行く為に歩き出した。
「なら、てめぇの家で読め」
三蔵は悟浄の背中に声を掛けたが、当の本人は全く意に介さず「いーじゃん」と手をひらひらさせ寝室に消えて行った。
悟浄が寝室のドアを閉めた途端一人リビングに残った三蔵は、声を押し殺し笑い出した。
止める事は出来なかった。
声が漏れ聞こえる事のないようDVDをセットし映し始めたが、どうにも笑いが込み上げてきて集中出来ない。
半分程過ぎたところで見る事を諦めた。
何度も見ている為、内容は隅から隅まで把握していた。
どうしても見たかった訳では無い。
DVDを止め、テレビも消し、寝室のドアを開けた。
悟浄がベッドに寝転がっている。
近寄ってみると、読んでいたのであろう本は手から滑り落ち床に落ちていた。
ぐっすりと眠っていた。
悟浄の腹の辺りに腰を下ろし顔にかかった紅い髪をそっと掻き上げると、睫にでも触れたのか瞼が微かに動いた。
起こしたか、と三蔵は手を離した。
だが、まだ良く眠っているようだ。
三蔵は先刻笑いの元となった、以前の事をまた思い出していた。
あれはこの部屋でテレビを見ていた時のことだった。
ちょうど映画が始まり、二人で見るとも無しに見ていた。
つい最後まで見てしまったのだが、三蔵は途中から内容など全く頭に入らなかった。
隣の悟浄が気になりそれどころではなかった。
あの時は本当に辛かった。
笑いを堪えるのがどんなに大変だったか。
とうとう我慢しきれず最後には声を出して笑ってしまっていた。
それ以来、悟浄はどんな映画も本もテレビも内容を確認しないと三蔵と一緒のところでは見なくなった。
あの映画のタイトルは何だっただろう。
三蔵が思いに耽っていると何か聴こえた。
今度こそ起きたのかと見たが、瞼は閉じたままだった。
寝言だったらしい。
「・・・さん・・・ぞ・・・・・・・・・・」
今度ははっきりと聴こえてきた。
寝言に返事をするのは良くないと聞いた事があるが気になった。
「あ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・意地悪・・・・・・・・」
三蔵は口元を押さえた。
腹が痛い。
ここで起こす訳にはいかない。
こんな姿を見られたら、後々面倒だ。
何とか込み上げてくる笑いを堪えた。
人は楽しみを求めて外に出たがるのだろうか。
ならば自分にはやっぱり全く必要ない、と三蔵は思った。
もう一度紅い髪を梳いた後、ベッドの傍から離れた。
ドアノブに手を掛けた時、唐突に思い出した。
あの時見た映画は、
『火垂るの墓』