深い眠りから浅い眠りへと移行してゆく。
夢うつつで伸ばした腕に抱える筈だった温もりは無く、悟浄は目が覚めた。
瞬きする事数回、窓の外を眺める三蔵がぼんやりと見えてくる。
「・・・何見てんの?」
「別に」
夜を待たずに二人してベッドに潜り込んで数時間。
35階のこの部屋から見える夜景は今が一番華麗だろう。
もっともその美しさも日常ともなれば、もはや何とも思わない。
第一、それが目的で悟浄はこの部屋に住んでいる訳でもない。
仕事が忙しく、人に任せた結果がたまたまここだったというだけである。
さして拘りもなく、要はどこでも良かったのだ。
「・・・綺麗だな」
そう呟いた三蔵の視線は下では無く、上向いていた。
「何が?」
「月」
「・・・・・それって愛の告白?」
三蔵が驚いて振り向いた、ように見えた。
何せ部屋の中に灯りは無く薄暗い。
「それぐらいオレだって知ってんのよ?」
「意外だな」
「あら心外」
とは言ったものの、悟浄の知識はいつぞや誰かから聞いたという程度のものだった。
だが、三蔵の様子からいってどうやらそれは正しい話だったらしい。
「で、どーなのよ?」
一蹴されるものと思っていた悟浄の耳に三蔵の意外な返事が届いた。
「好きなように取りゃいいだろう」
悟浄もベッドから抜け出て窓に寄る。
三蔵が言った通り、色の濃い弓形の月がくっきりと夜空に浮かんでいる。
眼下に瞬く人工的な灯りより遥かに美しい。
「月が綺麗だな」
先刻の三蔵と同じ台詞を今度は悟浄が吐いた。
「ああ、月が綺麗だ」
三蔵の返事に満足し、悟浄は後ろから三蔵の身体に手を回した。
一定の温度に保たれた室温の中、僅かに冷えた肌が心地良い。
「まさかてめぇが知ってるとは思わなかったな」
「そりゃ、お札にもなった有名人だし」
「その程度かよ・・・」
呆れたように脱力する三蔵と二人、声を出さずに少し笑う。
全裸の男同士が抱き合っている姿など見られたもんじゃないだろう。
だが、ここは35階だ。
うっかり見られる心配も無い。
夜景などどうでもいいが、高層マンションにはそれなりの利点があるようだ。
見下ろす景色に征服者にでもなった気分を味わうつもりは悟浄には毛頭無い。
征服したいのは腕の中にいる唯一人。
などとは口が裂けても言えやしないが。