今、鮮やかに春が訪れる
「飲み過ぎだ」
ベッドの上、俯せに沈没している自分に三蔵が言い放った。
自覚はしている。
食べるのもそこそこに浴びるほど飲んだ。
今自分の中を流れているのは血液では無く酒かも知れない。
「酔って忘れたい事だってあんだろーが」
顔を埋めたまま悟浄は返事をした。
くぐもった声に聞こえないかもなと思ったがそれならそれで構わなかった。
「酔って忘れられる程度のもんなら大した事じゃねぇんだろ」
聞こえたらしい。
薄い布団のせいだ。
『・・・・・アンタが言うなよ』
内心で呟き溜息を吐く。
何もかもが気に入らない。
薄い布団も律儀に言葉を返す三蔵もその三蔵が吐く台詞も。
何よりこんな自分が。
悟浄は更に身体の力を抜いた。
もっと埋まってしまえばいい。
「なぁ。『果報は寝て待て』、『待てば海路の日和有り』っつーの信じる?」
隣のベッドに腰掛け煙草を吸う三蔵に顔だけ向け訊いてみた。
「てめぇにしちゃ難しい言葉知ってんな」
「うっせーよ。で、どーなのよ」
「待つだけで朗報が来るなら苦労はしねぇよ」
訊くだけ無駄だった。
悟浄は壁を向いた。
元々万に一つも思ってはいない。
いっそここで華々しく散るのもいいだろう。
「・・・アンタに言いたい事があんだけど?」
「酔った勢いの台詞は聞きたくねぇな」
「じゃあ明日なら聞くのかよ」
「多分聞かねぇな」
散る事も許されないらしい。
二本目に火を点けるライターの音に再度三蔵に顔を向けた。
微笑っていた。
「・・・・・楽しそーね、アンタ」
「ああ、楽しいな」
「・・・そりゃ何より」
微笑の真意を測りかね煙草で一息つこうと俯せのままポケットをまさぐる。
取り出したパッケージの中で残っていた数本は全て折れていた。
くしゃりと握り潰し床に放り投げ、悟浄は布団に顔を沈めた。
どこまでも見放されている。
頭に何かが当たった感触に顔を上げた。
投げて寄越された赤と白の煙草。
「『蓼食う虫も好き好き』って言うからな」
自分は何か大きな思い違いをしていたのだろうか。
「・・・・・・どっちが“蓼”でどっちが“虫”よ?」
それには答えず布団に潜り込んだ三蔵に真意が見えた。
恐らく自分は今世界一間抜けな顔をしている事だろう。
「笑うな。キモイ」
我ながらゲンキンな奴だと思ったが小さく洩れる笑い声は止まらなかった。
「『笑う門には福来る』って言うだろ」
起き上がり放り投げられた赤と白のパッケージから一本取り出し吸ってみる。
自分のよりはるかに軽いそれが至福の味に思えた。