重なり落ちていく昨日

 

 

 

 

 

 

 

 

   ツイてない日は誰にでもあるものだ。

   悟浄にとって今日がまさにその日だったというだけだ。

   本業の賭博では大負けし、

   九割九分オトしたと思った女には最後でフラれ、

   賭場を出ようとしたところで雨に降られた。

 

 

 

 

   そして今道の真ん中で仰向けのまま雨に打たれている。

 

 

 

 

   いっそこのツキの無さを流してしまえと傘も借りずに賭場を出た。

   だがツイてない日はとことんまでツイてない。

   石ころに蹴躓いてバランスを崩した。

   よろけた拍子に水溜りに足を突っ込み、結局堪えきれず膝をついた。

   もう立ち上がる気も失せそのまま仰向けに寝転がった、というのが事の次第だった。

 

 

 

   目を閉じたまま悟浄は雨に打たれ続けた。

   正確に言うと目は開けられないと言うのが正しい。

   雨粒といえど直撃されるとそこそこ痛いし煩わしい。

   下からは泥、上からは雨。

   吸い込むにつれ起きる気力は萎えていった。

   ここまでなれば五分だろうが一晩中だろうがもう変わらない。

   難点は煙草が吸えない事だけだった。

 

 

 

 

   降りしきる雨の中、人が歩いて来る。

   足音から察するに男だと悟浄は思った。

   すぐ傍まで音が近付いた。

 

 

   「そこのオニーサン。煙草と火、恵んでくンねぇ?」

 

 

   こんな有様の自分など無視されるだろう。

   第一、仮に貰ったとして吸える筈が無い。

   殆ど冷やかしで目を瞑ったまま声をかけたのだった。

   だが通り過ぎるだろうと思った足音は止み顔に当たっていた雨も遮られた。

   目を開けると乱暴に煙草を咥えさせられ火が点けられた。

 

 

   「・・・アンタがナンパに引っかかるなんてオドロキ」

 

   「何がナンパだ。このザマで」

 

 

   横にしゃがみ込み煙草を吸い始めた三蔵の背が濡れ始めている。

   無理もない。

   三蔵の傘は自分の顔の上にもかざされている。

 

 

   「濡れてるぜ?」

 

   「今更多少濡れたところでどうって事ねえ」

 

 

   確かに白い法衣の裾にはあちこち泥が跳ねている。

 

 

   「隣、空いてっけど?」

 

   「生憎そこまで莫迦じゃないんでな」

 

   「結構キモチイイもんよ?ところで何でこんなトコ歩いてンの?」

 

   「八戒のところに急ぎの仕事の依頼があってその帰りだ」

 

   「八戒って、オレんちじゃねぇか。つー事はその仕事オレもって事か?」

 

 

   八戒と自分はいつの間にか三蔵の仕事を手伝わされていた。

   主に少々手荒な事が必要な時だったが。

 

 

   「このザマで明日使いものになるならな」

 

 

   フンと鼻を鳴らし唇の片端を上げた。

   いつ見ても癪に障る三蔵の顔だった。

 

 

   「うっせーよ。てか普通『どうした?』とか訊くモンじゃねぇ?」

 

   「てめぇに何があろうと興味ねぇな」

 

   「ったくよ、今日の締めくくりがアンタってぴったし。ま、煙草と火はどーも」

 

   「前金代わりだ。礼には及ばん」

 

 

   そう言って三蔵は立ち上がった。

   途端に短くなった煙草の火が雨で消えた。

   それを放り捨て悟浄は起き上がった。

 

 

 

 

 

   遠ざかる足音を背後に聞きながら歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   帰ったら、

   この再生不能の泥だらけの服をゴミ箱に突っ込んで。

   熱いシャワー浴びて。

   何も考えずに深く深く眠ろう。

 

 

 

 

 

   そして明日は三蔵の仕事をちゃっちゃか片付けてやる。

 

 

 

 

 

 

   見てろよ、クソ坊主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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