切り取られた劣情

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「一人で抜け駆けは無ぇんじゃねぇ?」

 

   風呂から出てきた悟浄が頭を拭きながら向かい側に座った。

   ガシガシと拭くタオルの隙間から飛沫が飛ぶ。

   舌打ちをしつつ空のグラスの方に三蔵は酒を注いでやった。

 

   「愛を感じるねぇ」

 

   勝手に飲めとばかりに顎で瓶を差し示すぐらいがせいぜいだろうと思っていた悟浄がニヤリとしながら飲み干した。

 

   「んなモン無ぇよ」

 

   同じく三蔵も飲み干しす。

   大した内容の無い悟浄の話に適当な相槌を偶に打ち、やがて話も酒も尽きた頃。

 

 

 

 

 

 

 

   「・・・・・来いよ」

 

   真っ直ぐ見据える。

 

   「愛は無ぇけど身体は欲しいってか?」

 

   悟浄がくくっと笑い立ち上がる。

   それを見て三蔵はベッドに移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

   「・・・・・・・言えよ・・」

 

   「・・何を・・・・・だ?」

 

   耳元で囁く悟浄の声が腰に響く。

 

   「アンタが本当に欲しいモン」

 

   受け入れられる状態にしておいて先端で突付くだけで挿れてはこない。

 

   「・・・・・死んでも・・言わねぇよ・・・・」

 

   三蔵は身体を入れ替え悟浄の上に跨った。

   そのまま上体を倒し軽く唇を合わせる。

   薄く開いた悟浄の唇を指でなぞり身体を起こしながら顎から鎖骨の真ん中を通り臍の下まで人差し指を這わせた。

   悟浄の眉根が寄り、息を詰めたのが見て取れた。

 

   「・・焦らしてくれるじゃねぇの」

 

   「・・・お互い様だろ?」

 

   悟浄の手は弧を描くように三蔵の脚の付け根をなぞっていた。

   だがそれは中心には決して触れはしない。

   尚も触れそうで触れないその片手を掴み五指を口に含み舌を絡ませてゆく。

   親指から小指まで順に一本づつ。

 

 

   「さっきの・・・。てめぇが言ったなら考えてやってもいいがな」

 

   「・・・・ぜってぇ、言わねぇ・・・・・・」

 

   互いに言わぬ事を知りながら、睦言として紡ぐ。

   一人で生きてゆける程自分が強くない事は既に自覚している。

   それでもそれを晒け出す程弱りたくは無い。

   今はその時期でも無い。

   何を置いてもやり遂げねばならない事がある。

   

 

   

 

 

 

   つまらぬ意地の張り合いに終わりを告げるべく三蔵は一旦浮かせた腰をゆっくりと悟浄の上に落としてゆく。

   腰を掴む悟浄の両手に力が込められたのは耐えるためか先を急くためか分からない。

   その悟浄の両腕を掴んでいる自分の手に力が入るのは間違い無く満たされてゆく心地よさだった。

   

 

   「・・・嘘吐きで、強情で・・・・・可愛げがクソも無ぇ・・・」

 

   「・・・てめぇに可愛いなんざ、これっぽっちも思われたくねぇよ・・」

 

   悟浄の手が漸く三蔵自身に触れる。

   つま先から頭のてっぺんまで痺れるような感覚に襲われ悟浄を呑みこんだ箇所にも力が入った。

   

   「・・っ!・・・いきなり何すンだよ。危なかっただろーが!」

 

   急に締めつけられ慌てて快感をやり過ごした悟浄が睨む。

 

   「・・・イっちまえっ・・・・・・・・・」

 

   強気な言葉を吐いてみるものの三蔵にも余裕は無い。

   

   「冗談。アンタより早くなんて、オレのプライドが許さねぇ」

 

   腰を抑えつけたまま起き上がった悟浄に後ろに倒された。

   ベッドの上とは言えそこそこ後頭部に響く。

   

   「何しやがる!痛ぇじゃねぇ・・・か」

 

   先刻までの欲を孕んだものとは違う色を悟浄の瞳に見、三蔵の罵声は尻すぼみになった。

   だがその色も一瞬で消え去った。

 

   「さて、下僕は下僕らしく働くとしますか。役立たず、なんて言われたくねぇからな」

 

   役立たず。

   悟空や八戒のように妖力制御装置を外せば凄まじい強さを持っているわけでも無い悟浄にとってそれは常に心の片隅にあるのだろう。

   莫迦な男だ。

   いらぬものを仕舞っておける程広い懐など自分は持ち合わせていない。

   三蔵は洩れそうになった言葉を押し止め快楽を追求することにした。

 

   「分かってるじゃねぇか。さっさと働け」

 

   「ホント、可愛くねぇの。早く、とか、欲しい、とか言えよ」

 

   

 

 

 

   

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   決して口にはしない想いを幾つもの嘘で塗り固めてただの欲望に見せかける。

   言ってしまえば、聞いてしまえば、もう戻れない。

   地に膝を着きそうになった日にほんの少しだけこの莫迦な男を感じられればそれでいい。

   今はそれで充分なのだと三蔵は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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