Days −眩しくて−

 

 


「いつか死ぬんだよな」




悟浄が呟いた。

今此処に居るのは悟浄と八戒の二人だけだった。

残りの二人とは戦闘中に離れてしまっていたが、辺りの静けさから見てあちらも片付け終わったようだ。



「誰がですか?」



低レベルとは言え数が纏まればやはり多少なりとも息が切れる。

八戒は煙草を咥えた悟浄の隣に腰を下ろした。



「俺達」



悟浄が煙と共に言葉を吐き出す。

雲の数は少なく陽射しは眩しいが、暑くはない。

穏やかな風が心地良く肌の上を通り過ぎる。



「何を考えたんです?」


「俺が死んでもやっぱりお前等何も変わらねぇんだろうなってな」


「変わって欲しいですか?」


「いーや」



悟浄の吐き出す煙が空に昇ってゆく。

風も、空気も、時間も、静かに流れていた。

今幾つもの命が消えていったというのに、時は変わらず流れる。

消えた命が自分達のものだとしてもだ。

今日を生き抜いても明日は知れぬ日々。

<死>について考えるという事は<生>を考えると同じ事かも知れない。



「悟浄が先に死ぬなんて判らないじゃないですか。僕達の方が先に死ぬかも知れませんよ」


「悟空が死ぬなんて想像出来ねぇな」



今までの戦いの中で悟空も怪我を負った事がある。

だが悟空が死ぬなどという事は考えられない。

それは皆同じだろう。

己の信念にどんな時も忠実で、真の意味で強いのは彼だけだ。


「確かにそうですね。・・僕が死んだら?」


「どうして欲しい?俺に」



いつものニヤけた笑いを浮かべて悟浄が答える。



「笑っていて欲しいと望めば?」


「オッケー、一生笑っててやるぜ」


「ずっと泣いていて欲しいと望めば?」


「それもオッケー」



悪戯心か興味か、ふと思い付き聞いた。



「一人は嫌だと言えば?」


「んじゃ一緒に逝ってやるよ」


躊躇うことなく即答される。自分が振った問いだが余りに悟浄らしい答えに、お人好しにも程がある、と八戒は呆れた。


「僕が望むなら、一緒に、ですか。凄い口説き文句ですね」


「惚れンなよ?」


「あの世でも貴方の世話なんて御免です」



負けず八戒も即答してやった。酷ぇなぁ、とクツクツ悟浄が笑い出した。


もう一人、いた。

口も態度も尊大な最高僧の肩書きを持つ男。

悟空と悟浄の喧嘩は煩いが微笑ましいで済む。だが、三蔵と悟浄の諍いは見るに聞くに耐えられない程発展することもある。よくもこの二人が共に旅などしていられるものだ、と常々八戒は思っていた。


「三蔵ならどうします?」






口元に運ぼうとした指先が止まり、灰がはらはらと零れ落ちる。

問われて出た答えに悟浄自身が驚いたようだった。





「・・さぁな・・・・・」と俯いた悟浄の横顔が垂れる紅い髪の隙間から見えた。

瞬間、八戒は視線を逸らし眼を瞑った。

瞼の裏に、人間だった頃の自分が、

続いて『大事なモンなんざねーからな』と背を向けた悟浄の姿が蘇る。




悟浄が呑み込んだ答えなど聞かずとも予想が付く程度の時は共に過ごしてきた。




どこまでも器用貧乏な男だ、と八戒は思った。




詰めていた息を吐き、逸らした視線を戻した先の横顔はいつもの悟浄だった。



口を開こうとし止めた。

悟浄に掛ける言葉が見つからない。

花喃に逢いたい、と思った。

叶わぬことは知っているのに。


気が付けばフィルターまで火が近付いていた煙草を地面に押し付け揉み潰した後、また新しい一本を咥えた悟浄がニヤリと口端を上げた。



「アイシテルゼ」


「知ってます。僕もですよ」



八戒もいつもの笑みで返した。
























「野郎同士で、何サムいこと言ってやがる」







戦闘中に離れてしまっていた三蔵が後ろに立っていた。



「三蔵も言って欲しいってか?」



悟浄が仏頂面の三蔵をからかう。

心底嫌そうな顔した三蔵が、今まで吸っていた煙草を指先で弾き飛ばしさっさと身を翻し歩き始めた。

悟浄と八戒も立ち上がりその後に続く。

新しい煙草を咥えた三蔵が懐を探った。その後の舌打ちからすると目当てのものは無かったらしい。

振り向き、ちらと一睨みすると、ヘイヘイ、と悟浄は隣へと歩を進め、咥えたままだった自分のと三蔵の煙草に火を点ける。

馴れ馴れしく肩に置かれた手を振り払いながら毒づく三蔵と、振り払われながらそれを茶化す悟浄。

見慣れた光景だった。

いつものありふれた日常。

空を見上げた八戒のモノクルに陽光が反射し、辺りに散った。



「三蔵」


「あ?」



面倒そうに振り返った三蔵に八戒は笑顔で放った。



「愛してますよ」



一瞬固まった後、懐に手を入れた三蔵。



「ちょっ、待て!何で俺?!」


「煩せぇ!」



浴びせられる銃弾を器用に避けながら悟浄が叫んでいる。



「八戒!てめぇのせいだ!!」



満面の笑みで八戒は答えた。



「愛ですよ、愛」





「こんな愛はいらねぇ!!!」











かつて『地獄に堕ちたい』と願った自分の想いは叶わず、今その願いは180度変わったが後悔はしていない。恐らくこれからもそうだろうと八戒は思う。







ただ、いつかその時が来たら自分の望みを躊躇う事無く叶えるだろう悟浄が羨ましいような気がした。



 

 

 

 


 

 

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