midnight walk
仕事を終え自宅マンションに着いた悟浄を待っていたのはエントランス横に佇む人影だった。
「・・・・・・三蔵?・・」
見間違いかと疑いながらも小さく声を掛けた悟浄に対し、
「・・散歩の途中だ・・・・・」
と返ってきた無愛想な返事はやはり三蔵本人だった。
散歩って・・・・・・
今、午前二時なんデスけど。
三蔵の家からオレんちまで軽く5kmは離れてるんデスけど。
雨降ってるんデスけど。
傘無しで散歩デスカ?
思わず出そうになった幾つもの言葉を何とか呑み込み悟浄は聞いた。
「・・・何で入ってないの?鍵は?」
「・・散歩だっつったろーが。何でてめぇの家の鍵持って散歩に出るんだよ」
あくまでも『散歩』で通そうと云う三蔵に呆れながらも悟浄は自分のカードキーを取り出した。
ズブ濡れの三蔵の腕を取り、そのまま中に入りエレベーターに乗る。
帰る、というセリフはこの際聞こえない振りをした。
部屋に入るとまずタオルを三蔵に放り、それから風呂の用意をした。
部屋の中まで入ってしまうと三蔵は大人しくなった。
こんな時刻に、居ないと判っても帰らなかった理由は敢えて聞かずにおいた。
「風呂、沸いたから入ってこいよ」
声を掛けたが動く様子の無い三蔵に、
「脱がして欲しい?」
と言うと渋々立ち上がった。
三蔵が風呂場へ消えてからきっかり五分待ち、悟浄も風呂場へ行った。
ドアを開けると案の定、鋭い睨みと「入ってくんな」という冷たいセリフが飛んできた。
仕事後で自分もさっさと一緒に入ってしまいたかったが、
暴れそうなのでここはひとまず服を着たまま持ち込んだ椅子に座るだけにした。
「浸かりながら寝ないように見張ってなきゃ危ないでショ、アンタ」
「寝ねぇよ」
「そ?でもいいじゃん、見られて減るモンじゃなし」と悟浄はついでに持って入った煙草に火を点けた。
三蔵は諦めたのか目を瞑って悟浄の方は見ないようにしていた。
弾む話題など何も無かったが時間潰しの為に悟浄は仕事や天気など取り留めのない話をした。
返事も無く、目は瞑ったままだったが三蔵が寝てないことは判るのでそのまま一人話し続けた。
そうして何本目かの煙草を吸い終え灰皿で消す為にそちらを見遣った時。
油断した。
全く動かなかった三蔵がいきなり立ち上がり悟浄の腕を引っ張った。
突然の事に頭から湯船に突っ込んだ悟浄が、
「ゲホッ・・・ゴホゴホ・・なにすンだ!」
と叫ぶも三蔵はシレッと
「てめぇもとっとと入っちまえ、俺は出る」
と脱衣所へと出て行った。
その後ろ姿へ「きちんと拭けよ!そのまま寝るンじゃねぇぞ!」と声を掛けた悟浄に、
「寝ねぇつったろ」
と三蔵が返事をした。
濡れて脱ぎづらくなった服を何とか剥ぎ取り悟浄は一日の疲れと汗を流した。
そして風呂から出てリビングに行ったがそこに三蔵の姿は無かった。
玄関を見たが靴はある。
もしかして、と思い寝室に行くとしっかりベッドで眠っている三蔵がいた。
悟浄が近付いても、「三蔵」と呼んでもピクリとも動かず熟睡していた。
・・・マジっすか・・・・・・・
悟浄が風呂に入っていたのは僅か15分足らず。
「寝ない」と言った筈の三蔵が眠り込むには早過ぎではないか。
悟浄は流した疲れが舞い戻ってきたのを感じた。
だが雨の中で見た時と打って変わって穏やかに眠る三蔵の顔を見れば、
ま、いっか、とも思えた。
髪も乾かし終えており、何もすることが無い悟浄は三蔵の隣に潜り込んだ。
そっと三蔵の首の下に腕を差し入れる。
−−−これぐらいは・・・・・・なぁ?−−−