戻れずとも
「なぁ、八戒」
「おかわりならポットに入ってますよ」
「んー、そうじゃなくってさ・・・・・・・」
珍しく歯切れの悪い悟空の口調に八戒は手元から向かいに座る悟空へと視線を移した。
「あのさ・・・」
尚も言いよどむ悟空の様子を見て八戒は見当が付いた。
「三蔵と悟浄の事ですか?」
驚いて顔を上げた悟空と目が合ったところでまた手元へと視線を落とした。
三蔵と悟浄の二人は煙が充満しているだろう隣の部屋にいる。
偶に聞こえる物音と声の調子からすると仲睦まじくという雰囲気からは程遠そうだ。
「不思議ですか?」
「だってさ、二人ともいっつも喧嘩ばっかしてんじゃん」
「喧嘩ばかりでも仲が悪いとは限らないでしょう?悟空と悟浄だってしょっちゅうしてても嫌いじゃないですよね?」
「うん。オレ、別に二人の事嫌な訳じゃないんだ。たださ、ホントすっげー不思議でさ」
こちらが口火を切った事で話しやすくなったらしく悟空はいつもの調子に戻っていた。
やはり悟空には遠慮など似合わない。
「オレ、三蔵も悟浄も八戒もみんな好きだよ。でもさ、どーしてもそんな風には見れねーんだよな」
「僕もですよ」
手を休める事なく八戒は答えた。
もうじき暗くなる。
それまでに終わらせておきたかった。
「多分、あの二人が一番思ってるんじゃないですか?『何でコイツなんだ』ってね」
「自分の事なのに分かんねーの?」
「そんなに気になるなら訊いてみたらどうです?」
「前に一回だけ訊いた事あんだけど、三蔵そん時飲んでたお茶で盛大にむせて死にそーになったからさぁ」
悟空の事だ、唐突に切り出したのだろう。
その様子が容易に想像出来、八戒はほんの少し三蔵が気の毒になった。
「・・・八戒も?」
八戒もそうだった?の声に思わず手が止まった。
「いや、言いたくないなら別にいいんだけど・・・」
両手を振って慌てる悟空に「いえ、構わないですよ」と返したがすぐに返事は出来なかった。
彼女を忘れた事は無い。
これからも決して忘れないだろう。
共に過ごした日々も失った日の事も。
何故彼女だったのか。
後に双子の姉であると知った時には既に好きになっていたのだから理由にはならない。
そもそも人を好きになる事に理屈も理由も要らないのだ。
例え世間で認められる関係で無くとも、この想いを恥じる事は決して無い。
三蔵と悟浄の二人の関係も自分達に勝るとも劣らず認められないものだろう。
自分は彼らに<彼女と自分の二人が視る事の叶わなかった未来>を重ねているのかも知れない。
手を完全に止め、暮れゆく空を見るともなしに見ている自分に気付き八戒は悟空に視線を戻した。
「ごめん・・・。変なこと訊いちゃって・・・・・」
「いえ違うんです。考えてただけです。でも、やっぱり分からないんですよねぇ」
安心した悟空が「そっか」と笑ったのを見て八戒はまた手を動かし始めた。
あともう少し。
ジープと遊び出した悟空を横目にひたすら手を動かした。
悟浄が扉を叩き夕食の時間だと告げに来た時、ちょうど終わった。
「八戒、行こうぜ!オレもう腹減って死にそ〜!」
そして部屋を出て行こうとしたところで悟空は振り返った。
「ところでさっ、そのクマの刺繍のパンツってまさかオレんじゃないよねっ?!」
「・・・似合うと思ったんですけどねぇ・・・・・・・・」