observer
三蔵と悟浄が連れ立って歩いていた。
多分煙草でも吸いに行ったのだろう、と八戒は宿の二階からその様子を眺めていた。
その読み通り、さほど宿から離れておらず八戒から見える位置で二人は立ち止まり、煙草を取り出した。
盗み見をしているような気分がしないでもなかったが、他にすることもないので八戒は見続けた。
三蔵が煙草を咥えたまま袂を探っている。
悟浄が隣から火を出してやった。
火を点けた後、三蔵は悟浄から離れた。
悟浄がまたライターを失くした三蔵に火を貸す際、余計な事でも言ったのだろう。
見える筈も無いのに、八戒は三蔵の表情が見えた気がした。
寄ると触ると諍いばかりのくせに偶にああして二人でいる。
三蔵は壁に寄りかかって立ち、悟浄は少し離れたところでしゃがんでいた。
悟浄がしゃがんでいると本当にどこぞのチンピラにしか見えない、と八戒はつくづく思った。
悟浄が三蔵の方に顔を向けた。
三蔵が地面を蹴って悟浄に土埃をかけている。
悟浄が慌てて立ち上がり髪や服を払っている。
二人とも正面を向いたままだったが会話はしていたらしい。
また何か三蔵の気に障ることでも言ったのだろう。
よくもああ次々と三蔵を不機嫌にする言葉が出るものだ。
いや、悟浄が言うからなのか。
それとも三蔵の沸点が低いからか。
八戒にはどちらも正しいように思えた。
二人とも一本目を吸い終え二本目を咥えた。
悟浄が三蔵の傍に寄り火を点けた後、咥えたままの自分のに点けライターをポケットに突っ込んだ。
悟浄はそのまま三蔵の隣で壁に寄りかかった。
自分が借りる立場のくせに三蔵が動く事はやはり無いようだ。
悟浄が今度は立ったままでいるのは土埃をかけられるだけでは済まない距離だからだろうか。
あの二人を観察していても面白くも何とも無かった。
表情が見えなくても、声が聞こえなくても想像が付く。
それでも八戒は見続けた。
それほど暇だった。
悟浄が腹を押さえ身体をくの字にした。
三蔵が隣に顔を向けた。
悟浄がつまらないギャグを言って一人でウケてるのを三蔵が冷ややかに見たか、
天然の三蔵のボケを悟浄が異様にウケて、それに三蔵が驚いたか。
このどちらかに違いない、と八戒は踏んだ。
それにしても面白くない。
他に何か無いのか辺りを見廻したが面白そうな物は見付からなかった。
部屋の中に目を遣ると、悟空はまだ昼寝中だった。
時折ぶつぶつと呟いている。
はっきりと聞き取れないが、きっと食べ物の名前の寝言に違いない。
八戒は仕方なしに外の二人に視線を戻した。
悟浄が正面の上の方を指差している。
三蔵も指差す方向を見た。
悟浄が心持ち膝を曲げ、三蔵の顔の隣に自分の顔を寄せた。
二人とも視線は正面に向けられている。
僅かに三蔵の顔が縦に動いた。
悟浄が膝を伸ばし腕を下げ、三蔵の方を向いた。
三蔵も悟浄を見ていた。
八戒も差された方向を見たが、特に変わったものは無かった。
空と雲ぐらいしか見えない。
二人がいる場所からでないと見えないのか、それとも自分にも見えているのに分からないのか。
これは想像が付かなかった。
二人が並んでこちらに向かって歩き始めた。
近くまで来た時、二人とも顔を上げた。
目が合った。
三蔵は無表情のまま顔を背けた。
悟浄はあまり見たことが無い笑いをほんの少し見せた後、顔を背けた。
目が合った時に声をかけなくて良かった、と八戒は思った。
かけていれば今の悟浄の顔は見れなかっただろう。
そして同時に、―ああ、そうなのか―と納得もした。
悟浄の“らしくない”顔に、
彼の、
彼らの、
この先に。
どれほど小さなことであっても。
一つでも多く。
良い事があるように、と。
八戒は願った。