On the Road
玄関が開く音が朧げな意識の中、微かに聞こえた。
薄目を開け時計を見る。
午前三時。
最後に見た時計の針は零時頃だったか。
三時間の睡眠。
まだ眠い。
廊下を通りリビングのドアを開ける音がする。
一人暮らしの自分の家に深夜何者かが侵入している。
だが、大して驚きもせず悟浄はベッドから動かずにいた。
間もなく寝室のドアが開いた。
静かに、という気遣いは全く無い。
近寄ってくる気配がした。
「起きろ。ってぇか起きてんだろうが」
やはりバレている。
僅かな望みを託し寝た振りをする。
無言の時間が少し流れ、諦めたかと思い気を抜いた瞬間俯せになった腰に衝撃が走った。
成人男子一人の重さで不自然に反らされた痛みで息が詰まる。
何とか声を出し、腰の上に座る男に言葉をかけた。
「・・・起こすンならもうちょい優しく起こしてくンねぇ?」
「狸寝入りの癖に」
立ち上がる気配を見せたのを逃さず俯せから仰向けに身体を入れ替え抱き込んだ。
「寝よ?」
何せたった三時間だ。
まだ寝足りない。
悟浄の最後の抵抗は脇腹へのエルボーで儚く散った。
「十分待つ。支度しろ」
*****
「で?どこ行くのよ?」
きっかり十分で支度し言われた通りに悟浄は車を走らせていた。
三蔵も免許は持っている。
だがいくら自分が寝不足であろうとも運転させる気は無かった。
ウィンカーを出すのが遅い、隣を並んで走るな、などいちいちキレる。
その上元々目の悪い三蔵は夜は特に酷い。
遠近感が余計無くなるらしく停止線までの距離を読み間違え信号無視はするし、かと思えばはるか手前で停まったりする。
生きた心地がしないのだ。
「真っ直ぐだ」
助手席でふんぞり返る三蔵が答えた。
この先には岬がある。
最先端まで行けば300度近く広がる海を見渡せる岬だ。
そこで悟浄は数日前に三蔵の家を訪れた日の事を思い出した。
つけっ放しにしていたテレビでタイトルは忘れたが『絶景100選』のようなものを放送していた気がする。
さして興味も無さそうに見ていたが急に思い立ちでもしたのだろう。
行き先の予想が付いたところで目に入った標識で距離を確認した。
間に合いそうだ。
走っている車も少なく信号もそう多くは無い道路で運転するという単調さに自然と欠伸が出た。
居眠りしそうなほどでは無いがやはり寝不足のせいか。
その多くは無い信号が前にあり赤になった。
隣の三蔵が動く気配に横を向いた自分の顔を引き寄せ、唇を合わせてきた。
深夜に起こした詫びのつもりかと思った意に反してそんなに軽いものでは無かった。
長く濃厚なものに自然と悟浄も三蔵の身体に手を廻す。
対向車線で車が走り過ぎていったのを感じ信号が青に変わった事に気付いたが三蔵も自分も止めなかった。
幸い後続車はいない。
再び静かになりまた赤に変わったと知った。
やがて目を閉じていても分かるリアウィンドウからの眩しいライトに唇を離した。
「眠気は醒めたか?」
「今すぐベッドに戻りてぇよ」
朝日を迎えに車は走り出した。