predawn
「「「お疲れ様でしたー!」」」
「おー、お疲れー」
外に出ると夜が明ける直前だった。
大して良いとも言えない、だがビルの中の澱んだものよりは数段マシな空気を吸い込んでいる内に空が明るくなり始めた。
白々と、街が夜の顔から朝の顔へと変えてゆく。
酔っ払いの喧騒も消え、辺りに響くのは夜の街が大量に吐き出したゴミを狙って騒ぐカラスの鳴き声。
あと何時間かすれば今度は通勤する会社員達の足音が響くのだろう。
自宅に向かって歩き始めた悟浄の胸にふいにある想いが沸き起こった。
それは何の脈絡も無く、唐突に沸き起こった。
理由など、何も無い。
強いて言うなら・・・・・・
やはり何も無い。
嫌な事も逆に嬉しい事も、何も無い。
いつも通り仕事をし、いつも通り帰るところだった。
逢っていなかったわけでも無い。
つい一昨日逢ったばかりで、昨日は電話で話もした。
だが、その想いは確実に胸の中に沸き起こり消えそうもなかった。
悟浄はゆったりした歩みを少し速めた。
偶に振り返りながらタクシーを探す。
自宅までなら必要無いが、三蔵の家までとなると少し距離がある。
この時刻なら三蔵はまだ眠っている。
自分の家の鍵は渡してあるが、三蔵の家のは貰っていなかった。
「いちいち開けにいくのが面倒くせぇ」と差し出されたが、受け取らなかった。
自分で鍵を開けるのが好きでは無い。
開けてくれる人がいるのなら鍵など持ちたくなかった。
故に今行けば三蔵を起こして開けてもらわなければならない。
悟浄は想像した。
しつこくチャイムを鳴らせば絶対に起きる。
こんな時間に訪ねてくる人間などそうそういないから自分だと分かるだろう。
渋々仏頂面でドアを開け、文句を浴びせる。
時刻が時刻だからきっと小声だ。
そしてさっさとベッドに戻るだろう。
三蔵の不機嫌な顔まで想像出来て悟浄は苦笑した。
まばらな人影は皆一様に疲れと夜の残り香を放っている。
その中で一人早足で歩く自分は浮いている感じがした。
振り返ったがタクシーは通らない。
急ぐ時に限ってこんなものだ。
悟浄はもう少し速度を上げた。
三蔵の隣に潜り込んでやろう。
きっと「酒くせぇ」と文句を言うだろうがそこは気にしない。
もし蹴り落とされたらその時は仕方無い、シャワーを浴びることにしよう。
そしてやっぱり隣に潜り込んでやる。
三蔵は寝起きは呆けてる事が多いから、次に起きた時は自分が来た事を忘れているかもしれない。
その時はこう言おうと思う。
「何となく、な」
きっと呆れてさんざんバカにした後に、
微笑うだろう。
悟浄は走り出していた。
「酒くせぇ」の他に「汗くせぇ」の文句も追加されそうだ、と思う。
それでも止らなかった。
理由も理屈も何も無い。
無くたっていい。
いつの間にかすっかり明るくなった朝の街を一人走る悟浄の靴音が響いていた。