その先に在るもの

 

 

 

 

 

 

 

 

生きてりゃ何度でも見れる、と言った筈の夕陽がやけに眩しく感じると三蔵は思った。

それは断じてあの男を連想したからではない。

あの色はこんな色ではない。

 

 

 

 

 

「あれま、一人黄昏れてるトコ、おジャマ?」

 

よりによって今一番見たくない男だった。

 

「てめぇはいつでも邪魔だ」

 

がさがさと草を掻き分け悟浄が三蔵の隣に座る。

 

「邪魔だって言っただろうが」

「アンタの言う事、いちいち間に受けてちゃキリねーだろ」

 

先に居た自分が他所へ行くのも癪だと舌打ちしただけで三蔵は動かなかった。

どうせ煙草一、二本の間だけだ。

何を考えてるのか、隣の悟浄もそのまま黙ったきり夕陽を見ながら煙草を吸っていた。

何もせず、何も喋らずに吸う煙草は減りが早い。

三蔵は根元まで吸い尽くした煙草を地面に押し潰し、二本目に火を点けた。

これを吸い終わったら戻ることにしよう、と思いながら。

 

 

 

「落ちる間際がやっぱ一番綺麗だな」

 

夕陽から目を離さずに悟浄が洩らした。

 

「何でもそうだろ。散り際の花も、燃え尽きる直前の灯も」

 

同じく三蔵も夕陽から目を離さなかった。

 

「「最期の悪足掻きだな」」

 

重なってしまった言葉に悟浄は苦笑を、三蔵は嫌そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

もうじきあの夕陽は沈む。

沈めば来るのは闇だけだ。

 

 

 

 

 

 

「落ちた後はつまんねぇぞ、きっと」

 

 

 

 

「分かってねぇなぁ。落ちた後は月が出る。散った後には種が出来るだろーが」

「尽きた灯は?」

「温かさが残るってぇのは?」

「サムい野郎だな」

 

甘い言葉は色男の必須条件なモンで、とニヤつく悟浄を冷ややかな視線で三蔵は見返した。

そういう言葉はどこぞの女にでも使え、と言おうとして止めた。

下手に誤解されては適わない。

別にこの男が誰を抱こうと一向に気にならない。

寧ろその方がいいとさえ思う。

 

 

 

 

 

 

 

「落ちる間際と落ちた後、どっちがいいんだ?」

 

「・・・どっちでも構わねぇな。夕陽でも月でも綺麗なモンは綺麗だし」

 

 

 

 

 

 

 

聞かなければ良かった、と三蔵は後悔した。

きっとこの男はそう言うだろうと判っていたのに。

落ちるのを待つでなく、落とそうとするでなく。

この莫迦な男はただ見続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙草一、二本分の筈が気付けば手持ちが無くなった。

一体何本あったのだろう。

周りで消した吸殻を数えれば分かるだろうが、それをしてどうなると云うものでもないので止めておいた。

空になったケースを三蔵は捻り潰し、立ち上がろうとした。

 

 

 

「もう少しで沈むから見てけよ」

 

自分の煙草をポケットから出し、放りながら悟浄が声をかけた。

三蔵が寸でのところで受け止める。

反射的に受け取ったものの吸う気にもなれず持ったままでいた。

放り返すことも出来たのにそれをしなかったのは何故だろう。

また地面に腰を下ろした三蔵の目の前で、

名残を惜しむかのように一層空が濃い橙色に染まり、

 

そして闇が来た。

 

 

 

 

 

 

 

「な?どっちも綺麗だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

分かってないのはてめぇの方だ、と三蔵は思った。

沈まぬ夕陽など無いのだ。

どれだけ足掻いてもいつか必ず沈む時は来る。

 

その時出る月は三日月か満月か。

望んだ形では無いかも知れぬのに。

 

 

 

 

 

 

 

「戻るぞ」

今度こそ三蔵は立ち上がった。

せっかちな奴、と続いて立ち上がった悟浄に先刻受け取った煙草を放った。

 

「おっと。人の好意を無下にすンじゃねーよ」

 

「不味いんだよ、てめぇの煙草は」

 

 

 

悟浄から受け取ったケースの中は一本だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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