術さえ持たず
悟空が蹲るその横で八戒がその背に手を乗せ屈んでいる。
何を話しているかは聞こえない。
悟空の視線は足元へ、八戒の視線は前へ。
二人の前には幾つもの墓があった。
避けられるものなら避けたかったが無理だった。
街中での戦闘に多数の人間の犠牲者が出た。
子供から老人まで、罪無き人間だった。
以前から妖怪による襲撃がある街ということだが、誰一人四人を責める者はいなかった。
今日の襲撃が三蔵ら四人を狙ったものだとしても、街人にとっては度重なる襲撃と変わらないと捉えられたらしい。
悟空がどうしてもと言い、街の人々が墓を立てるのを手伝った。
手伝ったのは言い出した悟空、そして八戒と悟浄。
三蔵は頼まれその墓の前で経を上げた。
人々は家路につき、今ここには四人しかいない。
「気にしたって仕方無ぇ。死んだモンは生き返らねぇんだ」
三蔵の言葉にも微動だにせず蹲ったまま悟空は動かなかった。
三蔵はそれ以上何も言わず後ろに下がった。
火の点いた煙草を一本置いて悟浄も下がった。
ちょうど三蔵の隣に来たところで三蔵が火の点いたライターを差し出した。
「どーも」
悟浄が新たに咥えた煙草に火を点ける。
そのまま悟浄は三蔵の隣に立った。
蹲る悟空と八戒の背と、その向こうの幾つもの墓を二人は見ていた。
あの墓の中には昨夜泊まった宿の人間も埋まっている。
挨拶を交わした親父や悟空に纏わりついて離れなかった子供。
食事を出してくれた娘に三蔵を見て拝んだ老人。
皆何の罪も無い、ただ其処にいたというだけで巻き添えをくらった。
自分達がいなければ明日も皆、笑い、怒り、生きていたかも知れない人達だった。
僅かに動いた時、悟浄の指が三蔵の指に触れた。
そのまま触れた指だけを軽く絡ませた。
薬指と小指の二本。
振り払われるかと思ったら少し強めに握られた。
三蔵の指も二本だった。
悟空が泣いていてくれればいい、と悟浄は思った。
雨でもいい。
せめて雨が降ってくれればいい、と思った。
いっそ責めてくれれば良かったのだ。
誰からも責められず、誰も責められず、何処にも持っていきようの無い感情は自身に向けられる。
自分達が望んだことでは無くとも、自分達の存在が招いた結果が今目の前にある。
―――笑えよ
―――面白くも無ぇのに笑えるか
―――怒れよ
―――疲れるだろうが
―――泣けよ
―――その言葉そっくりそのままてめぇに返す
繋がった二本の指で会話など出来る筈も無いが、あながち外れてもいないだろうと悟浄は思う。
街を見下ろす小高い丘にあるこの場所に穏やかな風が吹く。
空を仰ぐが残念ながら雨は降りそうも無い。
悟浄は絡ませた二本の指が離れぬ様に強く握った。