trap trip

 

 

 

 

 

 

 

 

浮上する意識の中で身体に伝わる振動を感じる。

重い瞼を薄く開けると寝室では無かった。

慌てて跳ね起きた三蔵は強か膝と額を打ちつけた。

痛さも構わず視線を前へ左へと移ろわせると見慣れぬ風景が見える。

くくくっと忍び笑いを洩らしている右へと漸く向いた。

 

 

「大丈夫ー?」

 

 

起き抜けの急激な動きに胸がむかつき頭痛がする。

三蔵は再び助手席へと深く沈み込んだ。

目を閉じおぼろげな記憶を形作る事に専念する。

次第に蘇ってきた。

そういえば随分前に悟浄に運ばれた気がする。

何故自分で歩かなかったのだろうと自問する内、答えはむかつきと頭痛に見付かった。

昨夜、これでもかという程飲まされたのだ。

現在大層ご機嫌な様子で運転している隣の悟浄に。

別なムカつきも込み上げてきた。

 

 

「あ、吐く時は前もって言って。車止めっから」

 

 

ちらりとこちらを見遣った悟浄の能天気な声に更にムカつく。

そういえば去年もこの手にヤられたのだったと思い出した。

天災どころか人災も忘れた頃にやって来る。

 

 

「・・・で、何処に行きたいんだよ」

 

 

自分の声にすら痛む頭を堪え三蔵は訊いた。

 

 

「おんせーん」

「何で普通に誘わねぇんだよ」

「何言ってんの。誘ったのに『行かねぇ』って言ったのアンタじゃん」

「・・・・・」

「やっぱな。全然覚えてねーし。ま、誘って素直に行くって言うとも思わねぇからいいけどよ」

「・・・・・」

「あ、今『一人で行け』って思ったろ。何か一人だと傷心旅行っぽいだろ?」

「・・・本当にしてやるか?」

「アンタが?オレを?ありえねぇ!」

 

 

豪快に笑う悟浄の声ががんがんと響く。

声がデカ過ぎる。

いや、それよりも何よりもその自信は一体何処から来るのだ。

怒鳴りつけたい気持ちは溢れんばかりだが如何せん頭痛が酷く話せない。

三蔵はひたすら耐えた。

 

 

「外見はともかくアンタのその性格に付き合えるのは世界中捜してもオレしかいねぇって」

 

 

こうまで言われても言い返す事が出来ない。

口を開けば言葉では無いものが出てきそうだ。

とにかく今は我慢だとぐっと堪える。

夜には、遅くても明日には、きっと回復している筈だ。

 

 

「今から行く温泉、露天からは海が見えんのよ。雪降る中の露天って良くねぇ?」

「三泊四日で予約入れといたから」

「今日はちょっと無理かも知んねぇけど明日にはもう大丈夫だろ」

 

 

何日か前にスケジュールをしつこく訊いてきたのはこの為か。

終始ご機嫌で悟浄は一人喋っている。

返事を返さなければその内黙るだろう。

正確には返したくとも返せないのだが。

眠った方がいい。

寝ていれば悟浄の呑気な声も聞かずに済む。

 

 

 

 

 

極力排除する事に決めた悟浄の声とカーオーディオから流れてくる微量な音楽に三蔵はうつらうつらとし始めた。

身体はシートに、意識は眠りへと深く沈む一歩手前。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・アンタと一緒に行きてぇのよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

最初からそう言え、このバカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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