「・・・・・・なんだその服」
「あ?結婚式」
「誰の」
「俺の」
「・・・・・・真っ昼間ッからキマってんのか」
 
男は床に書類と金糸と、それから倦怠感を撒いていた。
投げ出された四肢は脱力。指先で煙草が短くなっていた。
 
「・・・・・・腐ってんなあ」
「飽いた」
「仕事?」
「仕事もこの部屋もメンツもだ。てめえのバカ面が新鮮に見える」
 
男は身を起こし、傍らの灰皿にシケモクを投げ捨てる。
 
「じゃ着替えろよ。遊ぼうぜ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.            サムシング・ブルー.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ゾンビと化した男を連れビールを買い、昼間の公園で一息。
こんな贅沢は無い。
子供が遊び、少し離れた場所で母親らが談笑している。
フェンスにもたれそれを眺めた。
 
広場を囲む木々が、風に裸の枝を揺すっている。地面の上を、砂漠から運
ばれてきた砂と落ち葉が転がっていった。
頭上に広がるは曇天。
赤みを帯びた灰色の雲は、もうすぐ冬のやってくるのを告げる。
空を塞ぐ雲に閉塞感を感じたが、傍らの男の顔には生気が戻りつつあった。
 
「まだ戒厳令出てんの?」
「ああ。こないだ市内で人間が殺されたろう。一時期緩くなってたんだが、ア
レの所為でまた厳しくなった」
 
男は顔をしかめ、窮屈そうに首を回す。
ビールを口に含みながら、あたりを見渡す。景色の中には人間しかいない。
 
「ま、守りゃしねえがな」
 
妖怪の異変は数年前収束した。
しかし人間と妖怪間の溝は深く、争いは耐えない。
此処長安では街の入り口に関所が設けられ、妖怪の出入りが禁じられてい
る。
ついでに妖怪に真っ先に狙われそうな金髪坊主は、身の安全を図るために
滅多な事が無い限り寺からの外出禁止を言い渡されていた。そしてその外
出禁止を破らせる自分は、先日寺の人間から説教を食らった。適当にその
言葉を交わしていたら、今度は出禁になった。守るわけも無いのだが。
 
寺の人間にはむしろ感謝されても良い筈だと思うのは自分だけか。
この男を部屋に閉じ込めておくということが、正気を失った妖怪を隣に置いて
おくことよりももっと恐ろしいことだということが解っていないらしい。
ストレスの溜まった猛獣は餌係にすら襲い掛かる。餌係ですらない他人にな
らば言わずもがなだ。
悟空がいた頃はまだ良かったが、一ヶ月ほど前一人旅に出てしまってから
は、男の眉間の皺はますます深くなり、おとなう度に部屋で腐っていることが
多くなった。
 
「八戒はどうしてる」
「ああ、それでアンタんとこ行ったんだった。最近来て無いだろ?あいつ」
 
いつもならば三日と空けず来ていたんだが、と男は煙草の煙を吐き出す。
 
「結婚の話聞いた?」
「多少」
「仕事の合間縫って準備に追われてるらしい。日取りは来月の半ばぐらいに
なりそうだと。それまでは長安に居ろってさ」
「・・・・・・」
 
それは我慢の限界に達しそうな男が、近いうちに長安を出奔するであろうと
の事を見越した言葉だった。
眉間の皺を濃くし、男は黙ったままビールを飲んだ。
恐らく行動を予測されたことが気に食わないのだ。
 
「・・・・・・お前もそろそろ落ち着いたらどうだ」
 
八つ当たり来た。笑ってしまう。
 
「俺が? 何の為に」
「・・・・・・知らん」
「・・・・・・まあ、家族がいるってのは良いのかもな」
 
視線の先で子供が笑う。はしゃぎすぎて転ぶ。泣きながら走っていく。
微笑みながら、足元にまつわりついた子供を抱き上げる母親。
幸せの縮図。
 
そういえば昔
顔見知りの女が連れていた乳児を、抱こうとして四苦八苦していたら笑われ
たっけ。
"女を抱くのは上手いのにね"。
 
傍らに目をやる。
どこか硬い表情で、やはり遊ぶ子供を見ている。
 
「坊主は結婚できないんだっけ」
「そういうしきたりだな」
 
先日唯一の家族とも言うべき悟空に親離れされたこの男もまた、家族を持た
ぬ身となった。
 
 
 
公園の人々が同じタイミングで、空を見上げる。
遠雷の音が響きはじめた。
母親たちが我が子の名を呼ぶ。どうやら皆家路に着くらしい。
 
「・・・・・・降るのかね」
「雪下ろしかもな」
 
遠くに鳴っていた雷が、少しずつ近付く。
やがて誰もいなくなった公園に、遊具と自分たち二人だけが取り残された。
空を見上げたままの横顔を見詰める。白いマフラーから覗く尖った喉元、そ
の上の形の良い顎、ふとした折に見せる棘の抜け落ちた目。
視線の先を追えば灰色の空。黒い鳥が何羽か通りかかり、髪を揺らす風の
速さそのままに飛び去った。目指すのは羽を休める枝か風雨をしのぐ巣か。
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・一緒に暮らさね?」
 
ぽろりと、零れた言葉が男の耳に届くのを、見た。
視線がこちらに向いたとき、未だ棘は戻っておらず。代わりにその目は呆気
に取られたように微かに見開かれ。
間抜け面、と頻繁にぶつけられてきた言葉を思わず全部纏めて返してやり
たくなるような、そんな表情に思わず笑ってしまったのは仕方の無いことだ。
 
 
 
「・・・・・・冗談だよ」
「・・・・・・」
 
風が強くなった。
景色が一瞬白黒の平面と化す。立体感を取り戻した数秒後に怒号のような
雷。
急に音を立てて雹が降り出す。
 
「やべ、帰るぜ」
「ああ」
 
そういえば雷は神の怒りと聞いたことがある。
なんてタイミングだろう。もしかしたら本当に見ているのかもしれない。
雲の上にいる誰か。
 
「寄ってくー? うち」
「酒と煙草と飯 」
「はいはい途中で買ってくべよ……いてえな、畜生」
 
降り注ぐ氷の粒に顔を打たれながら、走り出した。
 
「おい河童!」
「あー!?」
 
自然大声になりながらビールをあおり、缶を空にして公園出口のゴミ箱に投
げ捨てる。
 
「さっきの話、乗った!」
「あぁ!?」
「てめえの家に住んでやるっつってんだよ!」
 
思わず男の顔を凝視した。
濡れてかきあげられた前髪、露になった両目が意地悪く笑っている。
 
「・・・・・・マジで」
 
雷が近い。
光と音の間隔も大分狭まっている。
 
「・・・・・・ってか」
 
道行く人々が頭を荷物で庇いながら走っていく。
過ぎ去る家々の屋根で氷がはじける。
窓の中で子供がガラスに手を付いて外を眺めている。
 
「アンタ寺出たいだけだろ!」
「当たり前だろうが !!」
 
神様の怒り
そのうちきっとこの頭に落ちる、そんな気がして足を速めた。
 
氷の欠片に白く染まった道と、白い服のふたり
これではなんだかまるで。
そういえば胸ポケットに青いハイライト、と
その連想に苦笑う。
 
 
 
祈り、誓いを捧ぐべき神を敵に回したのなら
ただその生まれたばかりの無垢な道を一心不乱に、逃げる以外にすることな
ど何一つ無い。
とりあえず煙草と酒のほかに野菜と、それから店で一番大きいケーキを買っ
て帰ろう。
 
 
 
 
 
 
 

E.

 

 

 

保志様から頂きました。

私からのリクエストは『最遊人』のフリル悟浄でしたvV

わお、悟浄と三蔵が・・・!

めでたい!!!

保志様ありがとうございましたvV

 

 

 

 

 

 

 

・TREASURE ・TOP