連ねる夜の全てを抱く

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼んだ覚えは無いが?」

 

 

 

開けた扉にノックをして入ると不機嫌な声がした。

だが膝に置いた新聞からは目を離していない。

 

 

 

「呼ばれた覚えも無ぇな」

 

「ならさっさと出てけ」

 

「そう言われると出て行きたく無くなるってモンじゃねぇ?」

 

「なら居ろ」

 

「そいじゃ遠慮なく」

 

 

 

三蔵が顔を上げた。

普通の人間ならそれだけで寿命が三年は縮みそうな視線を寄越す。

だが生憎そんなものには慣れきった悟浄は全く意に介さず三蔵が腰掛けているベッドに座った。

 

 

 

「お構いなく。新聞の続きどーぞ」

 

 

 

舌打ちの後三蔵が新聞に視線を落とした。

その姿を悟浄は壁に背を預けた格好で眺めた。

 

 

 

「背後に座るな」

 

「斜め後ろ」

 

「後ろに変わりは無ぇ」

 

「そんなにオレが怖いワケ?」

 

 

 

またしても舌打ちし三蔵が黙る。

煙草を咥え悟浄はほくそ笑んだ。

ぱらりと新聞を繰る音がした。

 

 

丸めた背中は法衣の上からでもごつごつしているのが見て取れる。

肩幅も広いとは言えないが、突き出たように張っている。

脇腹辺りには数日前の襲撃で負った打撲の跡がある筈だ。

鮮やかな青紫だった色はそろそろ黄色になっているかも知れない。

項を隠す髪は少し伸びたか。

 

 

 

 

「見るな」

 

「見てねぇよ」

 

「嘘吐け」

 

「何アンタ後ろに目でも付いてんの?」

 

 

 

今度は舌打ちの代わりに乱暴に新聞を繰る。

悟浄は未だ火の点けていない煙草を咥えたままで唇の片端だけ上げた。

 

 

 

 

 

 

互いに無言のまま時間が過ぎ、最後の一枚を繰る音がした。

預けていた背を壁から離し悟浄は三蔵の背後に寄った。

咥えたままだった煙草は床に投げ捨てる。

後ろから法衣の胸元へと手を差し入れた。

 

 

 

「触んな」

 

「だから。そう言われると触りたくなるっつったろ」

 

 

 

耳元で囁いた。

三蔵は微動だにしない。

 

 

 

「じゃあ触ってろ」

 

「そ?ンじゃ遠慮なく」

 

 

 

唇は首筋へと滑らせた。

胸元へ差し入れた手は上へと移動させ内側から法衣の肩を落とす。

三蔵の視線は新聞の最後のページに落としたままだ。

右の首筋から左へと唇を這わせ続ける。

そして腰紐へと手をかけた。

 

 

新聞を畳みテーブルの上に放り投げた三蔵が振り向いた。

 

 

 

 

 

馬鹿馬鹿しいやり取りの果てに漸く辿り着くこれからの時間。

放っておけば百万年待ってもその気にならないだろう三蔵を相手に毎回手を変え品を変え。

我ながら何とも涙ぐましい。

どれだけ苦労しているか三蔵は分かっているのだろうか。

 

 

 

 

 

何度も触れては離し、少しづつ深く唇を合わせながら一枚づつ着ているものを悟浄は剥ぎ取っていった。

床に落とす度にぱさりと乾いた音がする。

互いを隔てる薄衣一枚無くなった時に三蔵から吐き出された台詞。

 

 

 

 

「遅ぇんだよ」

 

 

 

 

 

全く。

これだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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