夜と夜の狭間

 

 

 

 

 

 

 

   蒸し暑さの中、漸く眠りについたのも束の間深夜に目が覚めた。

   再び訪れる睡魔を待ったがどこか彼方へ霧散したらしく、いくら待ってもやっては来なかった。

   降りしきる雨の音は絶え間無く続いている。

   増してゆく不快感に拳を一度強く握った後、三蔵は眠る事を諦めた。

   煙草を手に取り窓へと近付く。

   ガラスを伝う雫が流れ落ちる様を眺め煙草を吸った。

 

 

 

 

 

 

   吐き出す煙さえ重く辺りに留まっている。

   振り払っても尚纏わりつくそれは時を経ても決して褪せない過去に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

   三蔵は眠る事も纏わりつく煙を振り払う事も放棄し灯りの無い部屋で一人立ち尽くした。

   いつ止むとも知れぬ雨音。

   重くのしかかる空気。

   積もる灰と吸殻が灰皿の中で時を刻んでゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   吸殻の山が崩れたのと雨足が一気に弱まったのはほぼ同時だった。

   小さくなった雨音の中に、近付いてくる足音が聞こえる。

   窓を開けた三蔵の前に現われたのは予想通りの男だった。

   深夜に宿に戻る者などそうそういない。

 

 

   「お出迎え?な訳ねぇな」

 

   「当たり前だ」

 

 

   酒場からの帰りだという悟浄の髪は濡れて夜目にも光って見えた。

   宿から程近い酒場に傘をさすのも面倒だったのだろう。

 

 

   「どうせならもうちょい早く止みゃあいいのによ」   

 

   「日頃の行いがこういう時に出んだよ」

 

   「あら最近真面目よ?オレ」

 

 

   不意に、「あ・・」と下を見た悟浄につられ窓から僅かに身を屈めた途端、唇に触れた生温かいもの。

   触れたと感じた直後にはもう離れていき、避けることも出来なかった。

   何の真似だ、と言おうと口を開きかけたところで、

 

 

   「お土産」

 

 

   と悟浄がニヤリと笑った。

   

 

   「ってぇのはまぁアレだけどよ。隙だらけのアンタなんて滅多に拝めねぇし?」

 

 

   癪に障る台詞に無言のまま手近にあった銃を握った。

   察知した悟浄が制止の声を上げるが構わず銃口を向ける。

 

 

   「待て待て!こんな夜中にブッ放したら大騒ぎになるって。な?」

 

 

   宿の入り口の方へと後ずさりしながら悟浄が押し留める。

   見えなくなったところで三蔵は銃を握った手を下ろした。

 

 

 

 

 

 

   窓を開けたせいで取り巻いていた煙はすっかり流れてしまっていた。

   雨も上がっている。

   幾分湿気は残るものの澄んだ空気が心地良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

   眠れずとも身体だけは休めようと再びベッドに戻った三蔵に睡魔はあっという間に訪れた。

 

 

 

 

 

   朝まであと数時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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