夢見た街まで

 

 

 

 

 

 

 

 

   「オレ、そろそろ寝る」

 

   三蔵は立ち上がりざまの悟空と目を合わせた。

   続き八戒も立ち上がった。

 

   「じゃ、僕もそろそろ。三蔵、いつもの時間でいいですね?」

 

   ああ、と言う声に微笑と「おやすみなさい」で返し出て行く背を三蔵と悟浄の二人は見送った。

   人が歩く度に土埃が舞い上がる。

   使用されなくなってからかなりの年月が経っているのだろう。

   そもそもこんなところに何の為に建てられたの分からない家屋だ。

   山小屋にしては部屋が幾つもある。

   かつては家族で住んでいたのだろうか。

   その古びた家の一室で今二人は向かい合って座っている。

   程なくして吸い終えた煙草を揉み消した悟浄が動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「・・・明日、大丈夫かよ」

 

   気遣う口振りのように聞こえるが手の動きは全く止める気配が感じられない。

   ここで、「大丈夫だ」と答えようが「ダメだ」と答えようが同じことだ。

   止める気の無い悟浄と止めさせる気の無い自分。

   三蔵は離れた唇を合わせる為、紅い髪を掴み引き寄せた。

 

 

 

 

 

   最悪の出逢い方をし、そのまま最悪の仲でいた筈だった。

   互いにやる事なす事気に入らず、それを隠そうともせず旅をしてきた。

   同行の八戒と悟空も時に心配する程にぶつけ合った。

   遠慮の無い物言いから始まる諍いも数え切れない。

   それでも、今こうして傍にいる。

   離れることも可能だった筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

   「・・・・・・っ、・・くッ・・・・・・・ぅあッ・・・・」

 

 

   抑えきれず呻き声が洩れる。

 

 

   「・・・・悪ィ。・・もうちょい、だから・・・・・・・」

 

 

   謝罪の言葉など欲しくない。

   これは自分も望んだ行為だ。

   いつからか、

   時折悟浄の視線に込められた意味を知った時から。

   時折触れられるその手の柔らかさを知った時から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           八戒が屈んで野菜を採っている。

           籠に入れる端からそれらを悟空が頬張る。

           両手に食いかけの野菜を持ったまま立ち上がりこちらに向かって大きく手を振る。

           「猿!生で食えねぇのまで食って腹壊すンじゃねぇぞー!」

           傍らの男がそれに答える。

   

    

 

   

 

 

 

 

 

   「・・三蔵?・・・・・」

 

 

   頬を撫でる掌に目を開けた。

   

 

   「・・・・・情けねぇ面してんじゃねぇよ」

 

   「アンタ、まさか・・・・・」

 

   「んな訳無ぇだろ」

 

 

 

   この行為を想い出にする気もさせる気も毛頭無い。

   必ず生きてあの光景を実際にこの目で見るつもりだ。

   何一つ失わず全てを手に入れる。

   三蔵は頬を撫でる手に自分のを重ねた。

   骨張った、だが温かい手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

   汚れてヒビが入った窓からはそびえ立つ吠登城がぼやけて見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・TEXT ・TOP