夜のしじまに微かに聴こえるのは隣で眠る三蔵の寝息だけだった。
窓から零れる月光の中で仄かに浮かび上がるその顔を悟浄はただ見詰めていた。
眠っている今は毒を吐くことの無い唇。
閉じられた真っ直ぐな瞳。
薄明かりの中でも主張する額の真紅のチャクラ。
月光と共に溜息も零れた。
いつか咲く
奪われた経文も取り戻し全ては終わった。
今は長安への帰路の途中だ。
街に立ち寄る度の歓待を除けば他には邪魔する者も無く、行きよりはるかに早く進む事が出来た。
今日宿を取った街は長安と天竺との中間地点ぐらいか。
これまでと同じく盛大に催された歓迎会を三蔵の一言で早々に部屋へと引き上げた。
そして悟浄は自分に充てがわれた部屋を使うこと無く三蔵の部屋で共に夜を過ごしている。
「寝ねぇのか?」
穴が空くほどの視線で三蔵が目を覚ました。
「ああ、起こしちまったか。悪ぃ」
訝しげに三蔵の片眉が上がる。
「気にしないで寝てていいぜ。オレももう寝るから」
悟浄は繕ったが三蔵が気付いていない筈は無いと思う。
それでも何も言えなかった。
三蔵もそれ以上何も言わず背を向けた。
眠くない訳では無かった。
ただ眠るのが嫌なだけだ。
眠れば朝が来る。
明日が来る。
悟浄は背を向けた三蔵の身体に腕を廻しその項に顔を埋めた。
まだ眠っていないだろう三蔵が黙って動かずにいてくれる事に胸が詰まる。
朝も明日もいらない。
このまま永遠に夜が続いて欲しかった。