気付くのがいつも遅い。

   遅すぎたかも知れない。

   それでも構わなかった。

 

 

 

 

 

 

   じゃりじゃりと靴の下で小石が擦れ合う音がした。

   出来るだけ静かに歩いているつもりだが何せ小さな砂利を敷き詰めた場所だ。

   どうしても音が出る。

   深夜に忍び足でこんなところを歩いている姿が見付かれば大事になるだろう。

 

 

 

   砂利敷きから土の上と歩き、目当ての窓を見付けその下に立つ。

   旅に出る前と変わっていなければここの筈だ。

   他と同じくその窓も真っ暗で中にいる人物は寝ているか、さもなくば留守だろう。

   悟浄は少し上向き加減にその窓を見詰めた。

   三蔵とは何の約束もしていなかった。

   『探し物がある』

   たったこれだけの説明で離れた。

   気の短い三蔵が自分をもう過去の事として記憶の片隅に追いやっていたとしても不思議は無い。

   それでもよかった。

   三蔵がどうであろうと自分は何も変らない。

   

   

 

 

 

 

 

 

   今夜はどこか近くの林の中あたりで一晩過ごすつもりだった。

   今までさんざんしてきた野宿だ。

   もう一晩したところでどうという事は無い。

   朝になったらもう一度この窓の下に来よう、と決めて戻ろうとした時だった。

   窓が開いた。

 

 

 

 

 

 

   「・・・よぉ・・・・・・・」

 

 

   見下ろす男に久しぶりに掛けた第一声は何とも間の抜けたものだった。

 

 

 

   

 

   「・・・・・探しものは見付かったのか?」

 

   「勿論。見えるものと見えないものと一つづつ」

 

   「見えるものは何処にあるんだ?」

 

   「アンタの目の前。ちなみに見えないものはココな」

 

 

   悟浄はそう答えて自分の胸を指した。

   この身一つとこの想い一つ。

   それ以上もそれ以下も無い。

   

 

 

 

 

 

   長すぎる間の後に返ってきたのは短い一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   「上等だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            *****

 

 

 

 

 

 

 

   月明かりだけの執務室の中、注いだ酒を一口飲んだ三蔵が僅かに顔を歪めた。

   不審に思い見続けていると顔を背け答えが返ってきた。

 

 

   「何でもねぇ」

 

 

   そう言うと三蔵は残りを一気に飲み干した。

   今度は僅かどころか一目瞭然に歪んだ。

 

 

   「おい、どっか悪いんじゃねぇのか?」

 

   「何でもねぇっつってんだろ。ただ・・・久しぶりなだけだ」

 

 

   顔を背けボソリと呟いて三蔵は煙草を吸い始めた。

   煙を吐く勢いでその不機嫌さが伝わってくる。

   顔に出てしまった事が余程面白くないと見える。

   声を出さずに笑ったが気付かれ思いきり睨まれた。

 

 

   「オレはいまだ続行中のモンがあるんだけど?」

 

   「何だ?」

 

   「女、つったら信じる?」

 

   「信じるか、色呆け河童」

 

   「ンじゃ、確かめてみる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

   「・・・・・・後でいい。時間は・・・・・・・・、時間はいくらでもある。だろう?」

 

 

 

   「・・・ああ。有り余るほどな」

 

 

 

 

   その有り余るこれからの時間に比べれば、離れていた時間などほんの僅かだった。

   夜が終わり朝が来てもまた夜が訪れる。

   傾いてゆく月にもう恐れは感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                            end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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