| 「・・・ウソだろ・・・・・・?」 悟浄は荷台に残された積荷を前に呆然とした。積荷は仮設資材で、銀行のATMや医療機器といった精密機械と違ってユニックで積み降ろしが出来、作業としては楽な方だった。ユニックとは、トラックに付いている小型クレーンの事でラジコンで操作出来る。だが、その肝心のユニックが半分程降ろしたところで故障し全く動かない。会社に連絡したが空いている車も運転手もおらず、手降ろし決定となった。不幸中の幸いは、これが使う為の配送では無く、リース返却だった事だ。使う為なら組み立て時間に間に合わせなければならないが、返却ならば今日中に降ろせればいい。もっとも積雪がある冬に足場を組む事など殆ど無いが。 「しゃあねぇな。やるか」 溜息に自身への気合いを込め声に出し悟浄は降ろし始めたが、想像以上に重労働だった。2メートル近い踏板は重く、束ねた長い支柱はバランスが取りづらい。付近にいた作業員からの気の毒そうな視線と掛けられる「大変だなー。頑張れよ」の声に苦笑で返し、悟浄は荷台と資材置場をひたすら往復した。 漸く終えた頃には、肩、腕、腰、脚、全ての筋肉という筋肉が悲鳴を上げていた。あたりは暗くなりつつあった。エンジンを掛け、煙草を吸う為に上げただけの腕と肩が痛い。休むとそのまま動けなくなってしまいそうな身体に、悟浄は咥え煙草でギアを入れ替えトラックを出した。今日はこれで終わりで後は帰るだけだった。 ***** バシャと水音がし、慌てて悟浄は顔を上げた。風呂の縁に掛けていた腕が落ち身体が湯の中に沈みかけていた。どうやら眠っていたらしい。出来れば少し筋肉をほぐしておきたいところだが、長いこと浸かっているのも逆に疲れると判断し悟浄は早々に風呂から出た。 タオルを肩に掛けたままソファに座る。三蔵が冷蔵庫から缶ビールを出しテーブルの上に置いた。 「飲むか?」 「ああ、一本だけな」 風呂に入りに行った三蔵の背を見ながらプルタブを開け一気に飲んだ。全身にアルコールと水分が回り気が遠くなってゆく感覚がする。そういえば夕飯も殆ど眠ったような状態でつついた程度だったと悟浄は気付いたものの、既に取り込んだアルコールは疲労と空腹の身体をお構い無しに侵食した。ビール程度の低いアルコール分でも、今の悟浄にとってはジンやウォッカをストレートで飲むのと同じ威力だった。酔いと睡魔が襲い掛かってくる。 適度な疲労は快眠を生むが、過ぎたそれは悪夢を呼ぶ事がある。現に悟浄も幾度か経験済みであった。 眠りに落ちる寸前、悟浄は嫌な予感をうっすらと感じていた。大抵こんな予感が当たる事も経験済みであったが、悟浄にはもう抗う力は無かった。 固く目を瞑り、耳を塞ぎ、膝を胸に押し付け、息を潜めて、小さく出来るだけ小さく。 そうしていれば誰にも見えない。 その内消えてしまえる。 そう信じているというように、部屋の片隅で、公園の遊具の中で、蹲る子供の姿が見えた。見たくない、もう止めてくれと叫んでも声は出ず、次々と映し出され無理矢理見せられる光景は拷問に近かった。 これは夢だ、目が覚めれば終わる、と分かっていてそれを赦されず悟浄は悪夢にうなされていた。夢の中に悟浄自身の身体は存在しない。故に腕や手で目を覆う事も出来ない。現実の悟浄が目覚めるまでそのスライドのような映像は延々と流されるのだ。 やがて音の無い映像だけだった夢に混じり、微かに電子音と呼ぶ声が現実の悟浄の耳に聞こえた。その音は次第に大きくなり、何の音だと思った途端目が覚め、拷問のような悪夢は終わりを告げた。 見開いた目に室内は暗く何も見えなかったが、傍らに人の気配と携帯の着信音があった。三蔵が携帯を持って立っている。 「鳴ってるぞ」 |