「何からどうやって話せばいいかな・・・。うーんと、あのさ俺んち母子家庭で、仕事で殆どかーちゃん家にいないんだ。あ、でも別にそれが不満って訳じゃないから!」

悟浄が尋ねる前に話し出した悟空は慌てて付け足した。それぐらい見れば分かる。表情豊かなこの少年はそんな事で拗ねたり捻くれたりはしなかっただろう。またその母親にしても、一緒にいる時間は少なくとも愛情を注いでいたに違いない。悟浄は煙草に火を点けつつ微笑って頷いた。

「でもさ、やっぱり寂しい時もあってさ。毎日毎日友達と遊べる訳でもねーし・・・。そんな時よく三蔵んちの庭で遊んでた。三蔵んちの庭すっげーデカくて、木登り出来る木や池とかそれに芝生も広いんだ。最初は隠れて遊んでたんだけど、その内見付かっちゃって。でも三蔵は怒らなかった。それからは堂々と遊びに行ったなー」

ここで悟空は顔を少し上に向け遠い目をした。思い出しているのだろう。やがて持っていたペットボトルから一口水を飲むと続きを話し出した。

「雨の日にも行くようになると、三蔵は家の中に入れてくれた。って言っても一緒に遊んだくれたりっていうのは無かったな。本読みながらただ傍にいる時が多かった。あ、たまに宿題見てくれたりはした!でも怖ぇんだ、学校の先生なんかよりずっと!『何べん説明すりゃ覚えるんだ!こないだもやっただろうが!』ってさ」

悟空がくすくすと笑い出し、悟浄にはその三蔵が容易に想像出来た。短い間ながら三蔵の気の短さは充分承知していた。

「あとは危ない事した時とかもすげぇ怒った。普段はあんまし喋んないのに、怒る時はぽんぽん出てくんの。でも何か嬉しかったし、三蔵の傍にいる時は何だか知らないけど安心出来たんだよ俺。中学や高校に入ったら部活だとかで減ったけど、それでも落ち込んだり何かあったりした時はいつも三蔵んちに行った」
「三蔵って仕事は?」
「うーん、大学の先生だか何だかやってたみたいだけど・・・。多分辞めちゃってたと思う、大抵家にいたから。三蔵んちって近所でも有名なお金持ちだったし働かなくても困らなかったんじゃないかなぁ。あんまり気にした事なかったからよく分かんないけど」
「・・・三蔵、一人で住んでた?」
「うん。ずっと一人だった。一回訊いた事あるんだ、『一人で寂しくない?』って。そん時三蔵は何も答えなかったけどちょっと微笑ったんだ。今にして思えば多分寂しくないって意味だったんだろうな、そん時は分かんなかったけどさ」

三蔵はずっと一人だった。それを知った悟浄の心境は複雑だった。三蔵の幸せを望みつつ、だがしかしその傍らに自分以外の人間の存在を許せる程三蔵は遠い過去では無い。自分は何一つしてやれない癖になんと勝手な話だろう。悟浄は灰皿に煙草を押し付け消した後、すぐ次のに火を点けた。煙草を吸うという行為は、感情を隠すのに非常に便利である。
悟空の話はそこで暫し止まったが、悟浄は急かしはしなかった。陽はまだ高い。

「三年前の三蔵の誕生日、三蔵んちに行く約束してて・・・。『祝う年齢でもねぇ』って三蔵は言ったけど、そういうのって年齢とか関係ないだろ、だから強引に約束取り付けたんだ。で、夜約束した時間に行ったら、そしたら三蔵は家ん中で倒れてたんだ・・・。慌てて救急車呼んで、俺も一緒に乗って行って、そん時は大丈夫だったけど入院する事になって。後の検査で分かったんだけど、もう遅かったんだ・・・。誕生日にそんなのって無いよな。酷すぎるよ・・・」

悟空が俯いた。この少年にとっても三蔵は大切な存在だったに違いない。深い悲しみが悟浄に伝わってくる。だが掛ける言葉は見付からず、膝の上で拳を握る悟空を黙って見ている事しか出来なかった。
やがて蘇ってきた悲しみをやり過ごした悟空が顔を上げた。

「見舞いに行った時に、そん時初めて聞いた」














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