衝撃の告白から一週間三蔵が本来生きるべき時代へ帰る前兆は全く現われず、もっともそんなものがあったとして未体験の二人が気付くかどうかは甚だ疑問ではあるが、未だ三蔵は悟浄の家に居た。
そして奇妙な同居生活を始めて初の休日、悟浄は渋る三蔵を連れ出していた。これまでソファで寝ていた三蔵の布団と自分ので間に合わせていた着替えを買う為だった。

「必要無い」
「オレんじゃデカ過ぎるだろ」
「ずっと居る訳じゃ無ぇだろうが」
「そー言うけどな、あれから一週間だぜ?もういつになるか分かんねぇよ」
「だが明日って事も有り得る」
「一年後って事だってあんだろ。これから寒くなってくるしよ、アンタ風邪引いたって病院にもかかれないんだぜ?」
「引かなきゃいい」
「だあーッ!何であー言えばこー言うかね、アンタは!」

そんな応酬の末「じゃあ下着もオレのと共同でいいんだな!」の一言が効いて漸く連れ出しに成功したのだが、そう言った悟浄自身もし三蔵が「それも仕方無い」と答えたらと内心冷や汗ものだった。さすがにそれは御免蒙りたい。下着はともかく服については本人がいいなら放っておけばいいのだろうが、どう見ても借り物にしか見えない格好に悟浄はどうにも落ち着かない気分になるのだった。
そうして何とか連れ出したものの三蔵はしごく非協力的だった。「どっちにする?」と振り返れば三蔵は明後日の方向を向いていて、代わりに気を使った店員が答えてくれる始末だった。そんな自分達を見る店員の視線に何か含みを感じたのは決して気のせいではないだろうと悟浄は思い、暫くあの店には行くまいと独りごちた。



どうにかこうにか買い物を済ませ外に出てみれば、まだ四時を回ったばかりだというのに秋の空は早くも茜色に染まっていた。前を歩く三蔵の髪にも夕陽が反射し黄金色が赤みがかっている。ふと悟浄は胸がざわつくのを感じたが、それも一瞬の事であり瞬く間に消え去った。
夕暮れ時は人恋しくさせるという。
ただそれも恋しく思う人間がいてこその話で、誰一人そんな人間を思い浮かべられなかった悟浄は、刻々と暮れてゆく空を遠く見遣った。
視線を前に戻せば三蔵も空を見上げ立ち止まっており、悟浄がその先を追ってみると風船が浮かんでいた。子供相手に配られた内の一つと思われ、繋がれる手を失ったそれはゆっくりと少しづつ上昇している。茜色の空に漂うその青い風船は自由なようにも、また、迷子のようにも見えた。
そんな風船をじっと見詰めたままの三蔵の胸に去来するものが何なのか、悟浄には図れる筈も無く、同じように暫く黙って見ていた。

「さて、帰るとすっか」

やがて夕陽と共に下がってゆく気温に身震いが出た悟浄は声をかけた。

「・・・・・ああ」

その言葉に、正真正銘の迷子、それも時空の迷子である三蔵が漸く風船から視線を外し答えた。呟くような小さい声だった。

「おし、今日の晩飯はオレが作る!」

駐車場に停めてある車に向かいながら悟浄がそう言うと、今度は即座に返事が返ってきた。

「お前の料理は大雑把過ぎて、あんなモンは料理とは呼べん」
「食えりゃあいいじゃねぇか」
「大体、お前味見すらしてねぇだろ」
「男は一発勝負よ?」
「何が一発勝負だ。それで玉砕してりゃ目も当てられねぇな」
「オレがいつ玉砕したんだよ。つかアンタに味云々言われたくねぇって気がすんだけど?」
「どういう意味だよ」
「アンタ、何にでもマヨネーズかけ過ぎ。おかしいだろ」
「美味いだろうが」
「だからそれがおかしいんだっつーの」

二人の下らない言い争いは、駐車場に着き車に乗り込んでも終わらず、その頃には先刻の三蔵のか細い声はどこへやら野太いドスの効いた声に変っていた。僅か一週間で既に数え切れない程の口喧嘩をしており、人形のようだった三蔵を懐かしく思う時もあれど、それでも悟浄は変に遠慮されるより余程いいと思っていた。そして、あの風船を見詰め続けていた時のような三蔵よりもやはり余程いいと思った。














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