Days −月ガミテイル−
三蔵は疲れていた。
決して口に出したりはしないが、連日の襲撃に続く野宿。
これで疲れない方がおかしいと言うものだ。
そうしてやっと辿り着いた宿。
まともな食事、粗末とは言えベッドもある。
個室でないのが残念だがそう贅沢も言っていられない。
早めに到着出来た為、風呂も食事前に済ます事が出来た。
夕食時に飲んだ酒が程良い感じで廻り、後はただただ眠りたかった。
布団を被り、そう願う三蔵の思いとは裏腹に悟浄が話し掛ける。
「死ぬ時は俺の目の前でな」
悟浄が今日の同室者だ。
大概二人部屋の時は悟空と一緒なのだが、今日は「偶には部屋割変えようぜ!」などと悟空が言い出したものだからこんな目に合っている。
悟空も煩いが、それでも自分の様子を窺って静かにすべき時は静かにしている。
悟られているのは少々不本意だが煩いよりはマシなので何も言わない。
無視をしようかとも思ったが勝手な言い分に少しムカついて三蔵は返事をした。
「どこで死のうが俺の勝手だ。何でてめぇに指図されなきゃならねぇんだよ」
「・・・タイミング、わかんねぇじゃん・・・・・・」
会話が噛み合っていない。返事をしたことを三蔵は激しく後悔した。
初めから寝た振りをしていれば悟浄も諦めたはずだ。
今からでも遅くはないだろうか。三蔵は黙ったままでいた。
「・・・・」
「わかった?」
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「なぁ、寝てねぇだろ」
悟浄は返事をするまで話し掛けてくるつもりの様だ。
自分が死ぬ時に悟浄が生きている保証はないではないか。
そんな事も思い付き、
「ならてめぇは俺の前で死ぬのか?」
無視する事を諦め三蔵は答えた。
「無理」
月も無く、灯りも消した暗闇の中、悟浄の吸う煙草の僅かな明かりで悟浄が壁に凭れてベッドに座っていることが見て取れる。
三蔵も起き上がり、同じく壁に凭れた。
見えはしないだろうが思い切り睨みつけてやる。
「てめぇが出来ない事を俺にしろってぇのか?」
大体いつも悟浄は人の神経を逆撫でするようなことを言う。
自分が不機嫌になればなる程楽しそうだ。
反応しなければ良いのだ、と判ってはいても黙ったままでいるのも悔しい。
「・・・・・・・・アンタ、いねぇし・・・・・・・・・・・・・・・」
全く持って意味が判らない。
酔っているのか?
いや、あの程度でコイツが酔うわけがない。
昼間のハリセンの当たり所が悪かったか?
にしては症状が出るのが遅すぎる。
そこまで考えて三蔵は思考を止めた。
何故自分がコイツの戯言に付き合わなければならないのだ。
あぁ、もう面倒だ。
自分はもう眠りたいのだ。
三蔵は悟浄に背を向けもう一度布団を被り直し、限界を訴えていた瞼を閉じた。
まだまだ宵の口、充分睡眠は取れる。
尚もぶつぶつと呟く悟浄を完璧に無視した。
やがて諦めた悟浄も布団に潜り込んだようだ。
「約束だからな」
知るか、勝手に思ってろ、と三蔵は口には出さずに思った。
眠りに落ちる寸前、
何にせよコイツの喜ぶ事なぞ何一つしてやるものか、コイツより先にも死んでやるものか、と三蔵は心に決めた。
雲に隠れていた月が顔を出した。
閉じたカーテンの隙間から、金色の光が差し込んでくる。
床に堕ちた光が揺れる。
月が微笑っている。
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